ベネッセ教育総合研究所
特集 今、なぜキャリア教育か
 
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【ケーススタディ2】
育成機会通じコンピテンシー向上図る
関東学園大学
 関東学園大学では、社会活動に対応するために必要な六つの能力を「コンピテンシー」と定義し、授業や課外活動を通してその向上を図る「コンピテンシー育成プログラム」をスタートさせた。

教員が適切な活動を促す

 関東学園大学が04年度から1、2年次を対象に「コンピテンシー育成プログラム」を導入した。授業および大学や学外の団体が主催する各種課外活動をコンピテンシーの育成機会と位置付け、活動への参加を通じて社会生活に対応するための力を養う。1年次の「フレッシュマンセミナー(FS)」というゼミ方式の通年授業の中で、教員が助言と指導をしながらプログラムを実施する。
 日向寺(ひゅうがじ)純雄副学長によると、関東学園大学では地域の人材ニーズを探るため、自治体や地元企業154カ所を対象にヒアリングを行った結果、広い意味での社会性を身に付けた人材を望んでいることがわかった。企業が求める能力の中から大学教育で育成できると考えたものを、学生が身に付けるべきコンピテンシーとして定義した。それは、「表現力」「人との交流・協業」「主体性・積極性」「職業観・社会への関心」「論理的思考力」「リーダーシップ」の6項目である。
 一方、これらを向上させるため育成プログラムに位置付けている育成機会は、学生ディベート大会、スポーツフェスティバル、プロジェクト型授業、学内活動紹介誌編集委員など約30ある。
 1年次の場合、まずFSの授業で各コンピテンシーについて自己評価シートに記入。コンピテンシーごとに「行動なし」から「発展的行動(ができる)」までの7段階に区分され、セミナー担当教員との対話を通じて、自分のレベルを判断する。教員は、その学生に求められる能力を向上させるために適切な育成機会を選び、参加を促す。
 学生は自ら作成した活動計画に基づき育成機会に参加し、一定の役割を担って活動する。年度末には担当教員と共にコンピテンシーレベルを確認する。FSの担当教員は他の教職員から事前にその学生の活動内容について報告を受け、総合的に判断を下す。
 03年度は、1年生の一部を対象に試験的に導入。04年度からは1年生全員を対象に本格導入するとともに、昨年経験した一部の2年生も参加している。1年次は「表現力」「人との交流・協業」「主体性・積極性」の三つのコンピテンシーを対象とし、2年次に残り三つを加える。

客観的な評価基準を作成

 教員がコンピテンシーレベルを客観的に評価できるよう、各コンピテンシーの詳細な評価基準を作成した。「指名されれば大人数の講義でも答える」「ゼミでディスカッションする場合、異なる意見を踏まえて議論する」などの行動例からレベルを確認できる。さらに、各コンピテンシーのレベルと育成機会との関係をマトリクス形式で示し、レベルに応じた活動内容や役割をまとめたアドバイス用資料も用意。例えば「主体性・積極性」のコンピテンシーに応じてディベート大会に参加させる場合、能力が低位の学生には見学や参加という「一般参加」を勧め、中位の学生には実行委員としての参加を勧める。この資料を利用すれば、教員の能力や経験による指導の格差を最小限に抑えられるわけだ。
 約30の育成機会は、担当部署も複数にまたがる。試験導入の段階では、各部署からFSの担当教員や学生に情報が提供され、それぞれの育成機会でどの程度の効果が出たか横断的に確認することは困難だった。そこで今年度、専任職員2人と教員7人による推進事務局を設置し、情報を全学的に共有できる体制にした。
 事務局では、学生の活動記録が記入された「自己管理シート」と教員が作成する「面談記録シート」の管理や次年度の担当教員への引き継ぎ、部署間の連絡調整などを担う。新しい育成機会の企画やプログラム全体の見直しも担当する。
 本格実施から半年ですでに課題も見えてきた。3年次以降の教育との連携だ。3年次からは専門ゼミに移行するため、社会生活で求められるコンピテンシー向上への取り組みをどう組み込むかが難しいという。今のところ、専門ゼミの時間の一部をコンピテンシー育成に充てる、あるいは課外に別の機会を設けるなどの方策を検討している。



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