ベネッセ教育総合研究所
特集 今、なぜキャリア教育か
 
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【ケーススタディ3】
外部評価をきっかけに全学規模で展開
岡山大学
 岡山大学では、2004年度から正課としてキャリア教育を導入している。その取り組みは、これまでキャリア教育にほとんど関心を払ってこなかった国立大学の間で大きな関心を集めている。

学内体制を整備し、トップダウンで導入を決定

 きっかけは、学外委員による外部評価だった。03年3月にまとめられた「岡山大学『学生支援』に関する外部評価書」では、就職支援体制での評価が低く、特に「学生支援の方策が全体的に見て不十分」との厳しい指摘があった。危機感を抱いた岡山大学は4月、松畑煕一(きいち)教育・学生担当副学長をトップとする「教育・学生支援機構」を整備。その中心である「教育開発センター」を核として、学生への支援策の検討に乗り出した。
 教育開発センターの三浦孝仁教授によれば、問題点は二つあったという。一つは「就職状況に対する教員の現状認識の甘さ」。特に理系学部では、ゼミ推薦や学部推薦による採用枠が激減していたにもかかわらず、教員の危機意識が低く、有効な対策が見つかっていなかった。
 もう一つは、「自分の将来について深く考えないまま入学する学生の増加」である。将来の進路がほぼ決まっている薬学部や教育学部などの「目的学部」においても、その進路を選択しない学生が多くなっているという。
 そんな状況の中で就職支援を効果的に行うためには、「どこかで学生に自分の将来を考えさせることがどうしても必要」と三浦教授は指摘する。それが低年次でのキャリア教育の導入につながった。松畑副学長の「必要な教育ならば卒業単位として認定した方がいい」との考えを受け、最初から正課の科目として組み込むことになった。
 教育開発センターは、全学の教育に関する企画・立案や学部教育への提案を行う組織として、全学部の上位に位置付けられている。そのため、トップダウンの形で一気にキャリア教育の導入が決まった。

教職員の研究会を立ち上げ、今後のあり方も検討

 キャリア教育の中身は、企業と連携しながら、教育開発センターが開発した。「キャリアデザインノート」という民間の教材を用い、「自分を知る」「社会が求める人材」「社会と学問」などのテーマで講義を行い、学生が感想や意見を書き込み、最後に「行動計画表」として将来像をまとめるという流れだ。
 科目名は「教養特別講義II(キャリアデザイン)」で、原則として1年生を対象に、半期15回の授業で構成される。初年度は、100人の定員に対して300人が受講を希望。教室が足りず、200人は後期に回ってもらった。「目的学部」も含めて全学部の学生が受講しており、「一部の学部の学生しか参加しなかった就職ガイダンスとは反応がまったく違う」と三浦教授は言う。
 授業に対する学生の評価は極めて高い。前期が終了した時点でのアンケート調査によると、満足度は5段階評価の4.36。「来年度もぜひ受講したい」という声も多かった。毎回の授業の冒頭で、前回までのレビューをした上でその回の趣旨に触れ、授業の最後に講義のまとめを行うなど、各授業の位置付けをはっきりさせていること、キャリアカウンセラーによる添削や面接を組み込み、一人ひとりに丁寧に対応していることなど指導上の工夫も、高い評価に結びついた。
 こうした成果を受けて、キャリア教育に対する教員の意識も変化しつつある。7月には全学部の就職担当教員と職員による「キャリア教育研究会」が発足。外部講師との懇談会の形で、大学に対する要望を吸い上げ、今後のキャリア教育のあり方を模索する試みが始まっている。
 来年度は、3、4年生を対象にした「キャリアデザインII」を開設する予定で、現在、その内容を詰めている最中だ。岡山大学では、06年度に全学のカリキュラムを大幅に見直す計画で、キャリア教育のカリキュラム上の位置付けが強化される可能性もある。「大学院生を対象にした科目も必要で、最終的には社会人学生に対するキャリア教育にまでつなげたい」と三浦教授は構想を語る。
 岡山大学の取り組みは、各大学の教育担当副学長が集まる「国立大学教養教育実施組織会議」でも報告され、大きな反響を呼んだ。国立大学による本格的なキャリア教育の出発点として注目されている。



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