キャリアセンター設立に向け、教育基盤をつくる
厳しい就職状況が続く中、近年は、キャリア教育の重視を打ち出す大学が増えつつある。キャリアデザインを学部や学科の名称に掲げる大学も登場し始めた。その先駆けとなったのが、法政大学が2003年度に設置したキャリアデザイン学部である。
学部の狙いはどこにあるのか。設置に深く関わった川喜多喬(たかし)教授は、「昨今のキャリア教育ブームは、就職対策が前面に出ているようだが、本学部はそれとは異なり、生涯学習をテーマにした新しい学部を作ろうということからスタートしている」と語る。
川喜多教授によれば、これまでの生涯学習は学校教育や職業教育と切り離して捉えられがちだった。学校も企業も人が育つ場所であり、そこでの教育を含めて人生全体を豊かなものにすることが生涯学習だというのが、法政大学キャリアデザイン学部での位置付けだ。キャリアデザインとは、生き方全体のプランを描くことにほかならず、一人ひとりのキャリアデザインをサポートすることがキャリア支援であり、デザインする能力を育成することがキャリア教育だという。「そう考えると、これまで進路指導や就職指導の世界にキャリア教育を閉じ込めていたことの方が問題なのです」。
法政大学キャリアデザイン学部は、そうした「本来のキャリア教育」(川喜多教授)を実践するために設置された。目指すのは、個々の学生のキャリアデザイン力の強化だ。しかしその一方で、キャリアデザイン力はすべての学生に求められるものであり、特定の学部で教育すればいいというものではないと川喜多教授は言う。法政大学にはキャリアセンターがなく、全学的なキャリア教育にも着手していない。キャリアデザイン学部で試みて成功したキャリア教育の手法を他の学部にも広げ、ゆくゆくはそのノウハウを生かす形でキャリアセンターの設立につなげたい考えだ。この大学に入れば誰でも自分のキャリアを明確にデザインできるようになる、というゴールを目指す。
「そうなれば現在の学部のままでの存在意義は消滅するので、次はその先のキャリア教育を実験していく。実験すべきことが尽きればこの学部はなくなってもいいと考えている」と川喜多教授。
法政大学キャリアデザイン学部では、キャリア教育をテーマにした4年一貫の体系的なカリキュラムを組み立てているが、初めての試みだけに参考にできる事例はない。「その意味でも、本学部は『実験学部』。学生と一緒になって、望ましいキャリア教育のあり方を創意工夫しようというわけです」(川喜多教授)。
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