ベネッセ教育総合研究所
特集 コンペ型事業を考える
 
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【レポート:特色GP】
ものづくり教育を工業高校にアピール
長崎大学
 長崎大学工学部は、富山、新潟の両大学と共同申請したプログラムで、2003年度の特色GPに採択された。その一環として、学生のものづくりの成果を発表するコンテストを開催。工業高校の教員も招き、取り組みをPRした。

イベントで授業を公開

 採択されたテーマは、「ものづくりを支える工学力教育の拠点形成」。「学ぶ力」と「つくる力」に加え、技術者としての倫理観や環境意識も含め現代のものづくりで求められる総合的な力を「工学力」と定義、これを伸ばす教育の推進が目的だ。
 このプログラムは、工学力教育の体系化を進める「工学力教育センター」の設置、工業高校卒業生の基礎学力を補う「リメディアル教育」の実施、自主的なものづくりへのインセンティブを高める「ものづくり・アイディアコンテスト」の開催、の三つが主な柱。
 コンテストは、学生にものづくりの喜びを実感させ、モチベーションを高めるための仕組みで、各大学がそれぞれ実施する。長崎大学では04年1月26日に、
(1)公開授業
(2)コンテスト
(3)講演・パネルディスカッション
で構成する「ものづくり・アイディアコンテスト in 長崎」を開催した。
 (1)公開授業では、工学部の授業で従来実施されている「ブリッジコンテスト」を特別に公開。学生自ら設計・製作した橋梁模型を出品、強度試験を行い、技術的な工夫、美しさなども加味した上で優劣を競った。
 (2)のコンテストは、学生の作品をパネル展示し、来場者の投票によって最優秀賞、ユニーク賞、努力賞を選ぶというもの。長崎大学からは卒業研究や日頃の実験の成果など39点の応募があり、富山、新潟の両大学の作品も含め計48点が対象となった。
 (3)の講演・パネルディスカッションでは、「自主性と創造性を育むものづくり教育について」をテーマに、県の産業振興財団のインストラクター、県立工業高校の教頭が講演。続いて、長崎、富山、新潟の各大学工学部から教員と学生が1人ずつ加わった8人で、「大学のものづくり」というテーマで討論を行った。司会を務めた長崎大学工学部の茂地徹教授(創造工学センター長)は、「大学の入り口側の視点として工業高校におけるものづくりを、出口側の視点として企業におけるものづくりを、それぞれ紹介していただいた上で、その間にある大学のものづくり教育を考えたかった」と、狙いを語る。

進学者増え工業高校も関心

 コンテスト開催にあたり、ポスターを約200部印刷し、県内の大学、企業、普通科高校、工業高校などに配布した。約300人の来場者のうち、二十数人を工業高校関係者が占め、高校側からの反響は、当初考えていた以上に大きかった。この点について茂地教授は、「最近の工業高校は進学クラスを設置し、大学進学も含めた多様な進路選択を支援するところが多く、大学教育に対する関心が高い。講演者に工業高校関係者を招いたことで、他校の話を聞きたいという意識も働いたのではないか」と分析する。
 同大学工学部では、工業高校の卒業生を対象に、数学、英語、物理などのリメディアル教育を実施。「きちんとケアすれば、普通科出身の学生と比べても学力に遜色はない。むしろ、目的意識がしっかりしていて、ものづくりに対する情熱も強い」(茂地教授)と見ている。96年度までは3〜4人だった入学者も、00年度には約10人に増え、近年は20人程度にまで拡大。工業高校対象の入試説明会を開催するなど、募集活動に力を入れている。
 GP採択直後の04年度一般入試では工学部の競争率が上昇。AO入試でも、05年度は例年の3倍近い志願者を集めるなど、学生募集にも効果が表れているようだ。茂地教授は「工業高校の先生による口コミの影響も大きかったのではないか」と見ている。
 2回目の企画を11月22日に実施した。今回はエネルギーと環境をテーマに、学内の審査を経た7作品と、富山、新潟の各大学から出展された作品が競い合った。茂地教授は今後の課題について、「本来は、学生募集や就職も視野に入れた総合的なイベントとして企画や広報を行うべきだが、現在の国立大学にはそのノウハウはない。今後は外部の人材活用も含めて、コーディネーターの配置を考えるべきかもしれない」と話している。



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