ベネッセ教育総合研究所
特集 コンペ型事業を考える
 
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【レポート:21世紀COE】
再挑戦で研究・活動実績を鮮明に
九州産業大学
 世界的にも評価の高い柿右衛門様式陶芸をテーマにした九州産業大学の研究が、04年度の21世紀COEに採択された。02年度に採択からもれた内容を見直した上での再挑戦が実った。

“名人芸”を学際的に研究

 九州産業大学は福岡市東部に位置し、国際文化、経済、商(第一部・第二部)、経営、情報科学、工、芸術の8学部を有する総合大学だ。21世紀COEに採択された「柿右衛門様式陶芸研究センタープログラム」は、大学院の芸術、工学、経済学、国際文化の4研究科が共同で行う学際プロジェクトで、総合大学としての強みを生かしたものといえる。
 柿右衛門様式陶芸は鮮やかな色絵を特徴とする磁器で、17世紀中期に現在の佐賀県有田で創始された。世界的にも評価が高く、ドイツの名窯・マイセン焼のルーツとしても知られる。
 プログラムでは、その研究拠点として柿右衛門様式陶芸研究センターを設立し、
(1)意匠研究
(2)技法研究 (3)歴史研究・カリキュラム開発
の三つの機能を確立。門外不出の技法を含む名人芸の科学的解析や、世界で収蔵されている柿右衛門様式陶芸のデータベースの構築などを行う。
 09年度には、COEの研究成果を基礎に専門職大学院も設置する予定だ。拠点リーダーの下村耕史芸術研究科長は、「将来は、人間国宝級の陶芸家や制作技法を熟知した研究者を育成したい」と抱負を語る。

産学連携推進機構が支援

 このプログラムは、02年度に採択からもれた「陶磁芸術研究高度化推進プログラム」を練り直して再挑戦したものである。前回は陶磁器全般を研究対象とし、世界の陶磁器のデータを集めた「バーチャル美術館」の構築を盛り込むなど、大がかりな構想だった。九州産業大学では不採択の理由を「構想の規模が本学の実績からかけ離れすぎてしまったからでは」と分析。今回は、対象を特に研究実績のある柿右衛門様式陶芸に絞り込んで申請した。
 99年度に人間国宝の14代酒井田柿右衛門氏を大学院芸術研究科の教授に迎え、00年度には門外不出とされていた柿右衛門様式窯を大学の敷地内に建設。この窯で、学生の指導の下で地元の小学生から高齢者の作品まで焼き上げるなど、地域に根ざした陶芸教育も行ってきた。「再挑戦では、そのような実績を鮮明に打ち出し、『革新的な学術分野』の拠点にふさわしいプログラムであることを強調しました」と語る。
 前回は陶磁器以外の分野も加えた17人の研究者で構成されていた研究体制は、2人の人間国宝を含む陶磁器の専門家9人に絞って申請。審査の過程で「歴史研究・カリキュラム部門に陶芸史に関わる専門家がいない」「陶磁器の交易に関する経済史にも影響するので、経済学者との連携についてどのように考えているか」との指摘・質問を受け、陶芸史や経済学の研究者を加えたため、最終的には14人になった。
 一方で、新たな実績づくりにも力を注いだ。柿右衛門様式陶芸の世界的コレクションで知られるドイツのドレスデン美術館から陶磁器の専門家を招聘しての講演会や、「人間国宝座談会」を開催した。また、常設の大学美術館の設置も実現した。
 COEへの2度の挑戦は、学内にどのようなインパクトを与えたのだろうか。「本学ではCOE申請を教員間の競争を促す手段とは考えていません。ただ、再挑戦で選ばれたことは結果として、拠点と関係のない教員にとっても良い刺激になり、学内の活性化に結び付いた」と宇田川宣人学長は言う。
 九州産業大学には、学長をトップとする「産学連携推進機構」があり、産学官連携事業の推進や知的財産権の取得・管理・活用、学術事業の企画や研究活動資金の確保など、研究環境の整備に力を注いできた。
 このような支援体制が功を奏し、COE以外でも、文部科学省の学術フロンティア推進拠点として、02年度に「高齢者医療・機械福祉工学における医工学連携共同研究」、03年度に「人間―環境系の媒体としての景観プロセスに関する学際的研究」が採択された。
 「異分野の教員が集まって学術的な研究を推進し、総合大学の特色を生かしてどんどん挑戦していこうという機運を、今後も大切にしたい」と宇田川学長は語る。



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