ベネッセ教育総合研究所
特集 コンペ型事業を考える
 
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【レポート:21世紀COE】
申請を通して大学の方向性が明確に
二松学舎大学
 二松学舎大学は2004年度、再度の申請で「21世紀COEプログラム」に採択された。今回のチャレンジにあたっては、研究の領域や体制を見直した。2度にわたる申請の過程を通じて、大学が進むべき方向性がより鮮明になったという。

日本人の著述作品に絞る

 二松学舎大学は1877年に漢学塾として創設されて以来、国語と漢文の教育研究に力を注いできた。現在は、その伝統を受け継ぐ文学部に加え、国際政治経済学部が設置されている。COEプログラムへの申請について、石川忠久学長は「個性化を図り他大学との競争に打ち勝つには、『国漢の二松』という特色を伸ばす以外に選択肢はないというのが学内の共通認識だった」と語る。
 採択テーマは、「日本漢文学研究の世界的拠点の構築」で、
(1)日本人による漢字漢文文献の収集と所在調査
(2)研究情報の交換と研究者の交流
(3)研究者・専門家の育成
(4)漢文教育のための教科書の編集
s などが主な内容。02年度にも、「日本漢学研究教育法及び文献センターの構築」で申請、同時に国際漢字文献資料センターを設置した。専任教員を配置して、若手研究者育成のための公開講座や講習会を開始するなど実績づくりを進めたが、不採択に終わった。
 申請準備の中心的役割を果たした常任理事の佐藤保教授は、その原因を「日本漢文学の研究教育法の確立と文献資料センターの構築との関連が弱い上、研究対象が中国の文献を含む非常に幅広いものだったのでテーマの輪郭がぼやけてしまったため」と、振り返る。文部科学省からは、研究自体は評価されたものの、スタッフの人選や、世界的な拠点という視点を出すことなどについて、助言があったという。
 この点については、かねてから学内でも課題として浮上しており、02年度の申請作業と並行して佐藤教授を中心に会議を重ね、研究スタッフ、大学院のカリキュラムなどの見直しを行ってきた。さらに、不採択の通知を受けたあと、研究対象を再検討することにした。石川学長は「研究対象を絞り込み明確にしたことが最大のポイント。日本漢文学に関する世界の情報がすべて本学に集まり、しかも研究者の交流の拠点ともなる。文字通り、世界的な研究拠点としての機能を持つことになる」と語る。
 研究領域については、日本人の漢詩文、和刻本漢籍など日本人の漢文著述に限定。これらの著述の所在を世界的規模でデータベース化することを目的に、04年度に新たに設置した東アジア学術総合研究所の漢字文献資料研究部に、国際漢字文献資料センターを統合した。拠点リーダーに一線の研究者を起用し、同時に教員スタッフの増員も図った。また、大学院の中国学専攻を、中国語学、日本漢学、総合文化学の3講座に分け、カリキュラムを全面的に見直すとともに、「東アジアにおける漢字文化活用の現状と将来」と題する国際シンポジウムの開催に向け準備を開始した。

漢文を必修化する構想も

 COEに採択されたことで、様々なプログラムが動き出した。すでに台湾、中国、ベルギーからの研究者の招聘や、アジア学術総合研究所での若手研究者の育成が始まっている。さらに、日本人の漢文作品を多く採録する漢文教科書の編纂準備にも着手した。
 最大の変化は、二松学舎大学が目指すべき方向性がはっきりしたことだ。石川学長も「大学には個性が求められているが、それを具体化するきっかけになった」と強調。今後は、学生募集を含む広報活動でも、採択されたことをPRしていく方針だ。
 入試で漢文を課す大学は少なく、中国文学を学ぶ学生も減少気味だという。佐藤教授は、「漢文なら二松学舎と、旗幟鮮明(きしせんめい)にすることで、目的のはっきりした学生に来てもらえる」と期待する。将来は、文学部はもとより、学部を問わず必修科目にしようという構想もある。現在でも附属高校では論語が正課に組み込まれており、必修化が実現すれば高校から大学まで一貫した漢文教育が可能になる。
 「一時的には受験生が離れることになるかもしれないが、今回の採択によって、漢文訓読の重要性が認められたわけであり、やがては受験生にも理解されるはず」と、佐藤教授。今回の採択を通じて、漢文教育が自校の強みであるとの認識を深め、一層の強化に取り組んでいく方針だ。



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