ベネッセ教育総合研究所
特集 コンペ型事業を考える
 
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【レポート:21世紀COE】
市大との共催で高校生らに研究を紹介
横浜国立大学
 横浜国立大学は横浜市立大学との共催で、地域の研究の可能性をPRするシンポジウムを開いた。高校生や一般市民に、21世紀COEに選ばれた研究を分かりやすく紹介した経験から、新たな視点も得たようだ。

「次代の研究者を育てたい」

 横浜国立大学は2002年度の21世紀COEで、工学研究院の「情報通信技術に基づく未来社会基盤創生」と環境情報研究院の「生物・生態環境リスクマネジメント」が採択された。単位互換などで連携する横浜市立大学も、03年度に医学研究科の「細胞極性システム研究に基づく未来医療創成」が採択された。これら先端的研究を高校生と地域住民に知ってもらおうと、04年8月末、共催で「CEL・ジョイント・シンポジウム」を開いた。「CEL」は、三つの研究領域「Communication」「Environment」「Life Science」の頭文字。
 横浜情報文化センターを会場に、それぞれの代表者が研究内容と成果を紹介。パネルディスカッションでは、両大学の研究者、横浜に工場がある企業の役員、神奈川県産業技術総合研究所のトップが、「未来社会から横浜をつくる」と題して討論した。定員230人を上回る270人が参加。当初のメーンターゲットだった高校生の参加は20人弱と課題を残したが、高校の教員、一般市民などでにぎわった。
 シンポの開催は、両大学の学長や教職員幹部が出席する年1回の懇談会で提案された。市立大学の採択直後の昨年7月のことだ。市立大学の小川恵一学長が、「三つの研究を単独の事業にとどめず、三角形の各頂点に位置付け、三辺で囲まれる面の部分に両大学の他の研究も載せる形で地域のポテンシャルとしてPRしてはどうか」と発言。具体的な構想は横浜国立大学の白鳥正樹工学研究院長の下で進んだ。特に高校生に興味を持ってもらい次世代の研究者を育てようと、高校生を主な対象に設定。正式に開催が決まったのは6月で、2カ月で準備を整えたことになる。

高校教員が原稿を修正

 COE採択をアピールするシンポを開く大学は多いが、ほとんどは選ばれた拠点が自ら企画し、研究者対象の学術的な内容になる。白鳥院長らは、従来の学会と同じ発想では高校生が理解できないと考え、理科教育で協力関係にある地元の高校の教員を実行委員に加えた。発表者の原稿はこの教員が徹底的に修正したという。
 並行して、工学研究院の教員が高校への告知に奔走。すべての県立、横浜市立の高校約200校にポスターを送付する一方、横浜国立大学への入学者が多い約10校の校長を訪ね、趣旨を説明し生徒への参加呼びかけを依頼した。
 当日は、NPOで市民活動にも関わっている「生物・生態……」の拠点リーダーが、生物種の絶滅など身近な話題で聴衆を引きつけた。アンケートでは「研究内容をざっと紹介するだけでなく、もっと詳しく聞きたかった」と書く高校生がいた。一方でディスカッションは難解と受け止めたようで「高校生には居づらかった」との意見も。一般市民からは、「毎年開催してほしい」という要望が多かった。
 白鳥工学研究院長は、「CEL」を先端的研究のシンボルとして冠に掲げる形で、COE以外の両大学の研究も含め情報発信を続けたいと考えている。そこでは、今回のシンポの反応を踏まえ、分かりやすく伝える工夫が求められる。多くの高校生に参加してもらうには、準備期間を十分とった上で、高校との日常的なコミュニケーションに努め、オープンキャンパスなどのイベントと組み合わせることも検討したいという。
 「公立大学も、法人化した国立大学も、今後は地域の主役である市民に教育・研究活動をアピールし、理解してもらうことが大事。CELを、情報発信する定常的な仕組みにしたい」。小回りの利くボランティア的な組織のままで動き、学長の支援を取り付けることで学内での理解と協力を得たいという戦略を練っている。
 白鳥工学研究院長は、COE採択と今回のシンポが、学内の研究者同士の交流を促したと指摘する。「同じ大学で近接する領域に関わっていても、研究について話すことはない。これからはそんな閉ざされた研究ではなく、異分野の者同士がプロジェクトを組むオープンな研究でないと社会が受け入れてくれない。COEはその方向転換を迫っている」と強調した。



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