ベネッセ教育総合研究所
特集 コンペ型事業を考える
 
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【レポート:現代GP】
採択で得た信用を背景に地域との連携を強化
県立長崎シーボルト大学
 県立長崎シーボルト大学は、性教育を核とした児童・生徒のための全人教育プログラムによる出前授業を始めた。今後は訪問する小・中学校を拡大し、地域との連携を強化していく予定だ。

地域に根付くには10年必要

 1999年度に県立長崎シーボルト大学は開学した。地域看護や養護教育の実習先を開拓する過程で、ギブ・アンド・テイクの関係として大学にできる地域貢献を模索してきた。
 その成果の一つが、03年度に近隣の中学校で実施した性と命を考える全人教育プログラムだ。「いのちの学習」と題して1年生を対象に行われたもので、医療や助産、看護、栄養管理などの専門家による授業と、ボランティアの大学生をリーダーとしたワークショップが実施された。
 推進役を担った看護栄養学部の小林美智子教授は「今の子どもたちは、歪んだ性の現実や氾濫する有害な情報の前に、無防備なままで放り出されているのが現実です。彼らに救いの手を差し伸べるのは、当事者の小・中学校だけでは限界があり、本学として貢献できることがあると考えたのです」と語る。
 04年度の現代GPで採択された「シーボルトキャラバン│生と性の主人公になろう」は、こうした実績を基礎に、さらに内容を発展させたものだ。実施計画には、小学校高学年と中学生を対象に、各3年間の教育プログラムを開発・実践することが盛り込まれている。
 授業は、性や出産、命、食育などに関するもののほか、コミュニケーションやメディアリテラシーに関するものもあり、看護栄養学部と国際情報学部の2学部4学科を擁する県立長崎シーボルト大学の教育資源のすべてを注ぎ込んだという。授業の具体的内容は対象校との打ち合わせによって個別に検討され、構成や実施回数なども柔軟に対応する。
 対象校では、性と命の教育を必須とし、残りを選択メニューとしてユニット化することで、オーダーメイドの教育プログラムを編成できる体制を作り、いずれは県内の全小・中学校で実施したいと考えている。教員12人と職員1人から成るキャラバン隊を編成、その推進にあたる。
 職員は小・中学校への広報活動から実施プログラムの打ち合わせまで、対外的な役割をすべて担い、教員はプログラム全体の企画や講師の選定・依頼などを担当する。授業は学内の全教員が担当、対象校のニーズに応じて人選し、派遣する予定だ。
 「こうした活動は最低10年続けなければ地域に根付かないし、そこまでいけば全国的な波及効果も表れてきます。これを世直しと考え、息長く続けていきたいと考えています」と小林教授。

学生に対する教育効果も

 このプログラムでは、学生もボランティアでワークショップのリーダーとして重要な役割を担っている。ワークショップは、グループカウンセリングを通して児童・生徒が性と命に関わる自身の問題について理解を深めることが狙い。
 子どもたちは、教師や親には言えない悩みも、年齢が比較的近い大学生が相手なら言いやすく、03年度のプログラムでは学生の活用が大きな効果を上げたという。
 こうしたボランティア活動は、学生に対する教育効果も期待されている。参加した学生からは「中学生の性に関する知識があまりに不正確なことに驚くと同時に、自分の勉強不足も実感した。自分自身もあらためて勉強し直したい」といった感想が多く寄せられ、大学での学び全般で主体性が高まったほか、ワークショップの運営を通してコミュニケーション能力や企画力が向上したという。
 現在、学生ボランティアには23人が参加。今のところ看護栄養学部からの参加にとどまっているが、今後は国際情報学部にも呼びかけていく予定だ。
 ただし、現状では完全なボランティア活動であり、授業との両立が難しい面もある。ボランティア科目としての単位認定も検討しているというが、学生が参加しやすくなるように、カリキュラムの中にどう位置付けていくかが課題といえる。
 武藤眞介学長は「このプログラムを成功させることで、本学の個性と存在感を社会に強くアピールし、地域ネットワークの核としての大学づくりに弾みをつけたい」と語る。



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