ベネッセ教育総合研究所
特集 コンペ型事業を考える
 
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【レポート:現代GP】
食と流通の融合で食の安全の専門家を
東京海洋大学
 東京海洋大学の食品流通の安全管理システム専門家育成プログラムは、前身である2大学の専門分野の融合によって開設された。新設大学の知名度を上げるため、今回の採択を積極的にPRする考えだ。

7学科の専門科目を開放

 「他大学との統合・連携による教育機能の強化」部門で採択された東京海洋大学のプログラムは「食品流通の安全管理教育プログラムの開発―食品流通の安全管理システム専門技術者養成コースの創設」で、学部と大学院博士前期課程の全学生が対象。水産食品に限らず食品全般について、生産から加工・保存、流通、販売、消費までの全過程を視野に入れて総合的な安全管理に関わる技術者を育成、メーカーや流通関連企業、食品行政分野への人材供給を目指す。
 東京海洋大学は、東京水産大学と東京商船大学の統合によって03年10月に発足、今年度1期生を迎え入れた。海を中心とする環境、生物資源、食品などの分野を海洋科学部に、海を利用した輸送、交通、流通などの分野を海洋工学部に、それぞれ継承している。
 採択されたプログラムでは、海洋科学部がカバーする食品分野と海洋工学部がカバーする流通分野を柱に、カリキュラムを編成。食の安全に関わる基本は、共通基礎科目の「生命倫理」「技術史」「経済学」などで学ばせる。さらに、海洋科学部4学科と海洋工学部3学科で相互に開放し合う専門科目の中から、このテーマに関連するものを指定。例えば、海洋環境学科では「資源環境学」「海洋生態学」、海洋電子機械工学科では「冷凍空調工学」「伝熱工学」などが検討されている。これらの中から一定の単位数を修めた学生に、コース修了の認定証を出す。今年度は試験的に実施し、認定要件など細部を詰めて05年度から本格導入する。
 桑島進副学長は、BSEや遺伝子組み換え食品、産地の虚偽表示など食の安全に関わる問題の多発と関心の高まりを指摘する。「この分野の専門技術者は世界的に不足している。欧米の大学では人材育成のコースが作られているのに、日本にはほとんどない」と説明。このコースを大学の目玉として育てたい考えだ。
 海洋生物資源、海洋食品、流通情報工学の各学科の教育内容は、特にこの分野との関係が深い。そのためこの3学科では、コースを意識して選択履修する学生が特に多いと予想される。

力を入れてきた広報に弾み

 2大学から引き継いだ食品と流通の専門分野を統合するだけでなく、政策という新たな分野も加えて学際性を打ち出す。食品政策に関わる省庁や関連団体から非常勤の実務家教員を迎え、集中講義を設ける予定だ。採択初年度の予算申請総額1300万円には、その人件費のほか、海外から専門家を招いてのシンポジウムの開催費用も計上している。
 現代GPへの申請にあたっては、様々なテーマが浮上した。統合による2キャンパス制の不便さを改善するためのインフラ整備は大きな課題だ。旧商船大学の越中島キャンパスと旧水産大学の品川キャンパスの間の移動は、電車だと40分以上かかるのに対し、船なら20分で済むという。そこでスクールバスならぬスクールボートの導入を支援してもらうためのプログラムも検討。両キャンパスで同時に授業ができるテレビ会議システムの導入も候補に上がった。「しかし、教育内容というソフト面の充実が学生にとって最もメリットが大きいと考えました」と、同副学長。
 商船大学は130年、水産大学は115年の伝統を誇っていたが、「統合によって知名度が一気に低くなった」のが悩みだという。今年度は広報活動に力を注いでおり、新聞に広告を出し、進学情報誌でも積極的に広報している。教員には、出身高校や地域の高校を訪問してもらった。そこでは、統合によるメリットとして、海洋科学部に文理融合型の海洋政策文化学科を新設したこと、教養科目が充実したことなどを例示した。これからは、今回の採択もアピールしながら、大学の名前を浸透させたいという。
 東京海洋大学副学長は「このコースの真価は、修了者が社会に出て実際に専門家として通用するかどうかによって、評価される。文科省からの支援は3年限りですが、それ以降の継続的発展のために、経費をどう捻出するかが課題」と話す。



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