ベネッセ教育総合研究所
キャリア教育再考
IPUコーポレーション
チーフディレクター
松高 政(まさし)
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解決能力はどの授業で?

 前述の鼎談で小杉氏が指摘している通り、そもそも日本では、大学教育は社会に出て役立つものではなくて当たり前という意識が大学側にあり、学生も同じ認識で授業を受けているといえる。
 図表1は、小杉氏らが1989年から91年の間に就職した人を対象に、98年に実施した意識調査の結果である。

図表

 ここで明らかなように、職業生活で重要と考えられている能力と大学で身に付けた能力には乖離がある。採用時に重視されるといわれる「判断力、意思決定力」「問題解決・分析能力」「コミュニケーション能力」では特にギャップが大きい。では、これらの力もやはりキャリア教育で身に付けなくてはいけないのだろうか。
 図表2は、現在、大学で行われているキャリア教育の内容を整理したものである。

図表

 02年に私たちが行った調査で、キャリア教育と位置付けられている授業として回答されたもののうち、公開されている、もしくは入手できたシラバスから内容、テーマを整理し、大きく四つに分類した。この表からも分かる通り、「コミュニケーション能力」については多少扱われているものの、「判断力、意思決定力」「問題解決・分析能力」には、現状のキャリア教育では触れられていない。だからといって、このような力をキャリア教育で身に付けさせるべきだということにはならないだろう。
 キャリア教育は万能ではない。十数コマの授業で、判断力、意思決定力、問題解決・分析能力までカバーするというのは、やはり無理な注文である。このような能力こそ、従来の授業で身に付けるべきだ。そもそもキャリア教育の実施担当は進路・就職関連部署が多く、判断力や問題解決能力の育成まで担うのは、荷が重すぎる。
 キャリア教育では、社会や仕事に関する材料をもとに、大学生活の過ごし方、将来の進路を考えさせる。しかしその材料を処理する土台となる情報収集力、分析力、問題解決力が身に付いていなければ、消化不良を起こしてしまう。キャリア教育の内容と日々の授業とが車の両輪のように機能することで、初めて効果が生まれる。そうなってこそ、キャリア教育が現代的教養教育になるのだ。



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