ベネッセ教育総合研究所
特集 教育の質をどう保証するか
大南正瑛
京都橘女子学園特別顧問
大南正瑛
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【規制緩和をこう考える】
主体的構造改革を促す弾力化の継続を

教育の可能性拡大を評価

―中教審の専門委員や設置審の常任委員などを長年務めたご経験から、近年の規制緩和の流れをどうご覧になりますか。

大南
 二つの点で大学教育に大きなメリットを与えたと思っています。
 一つは、社会のニーズに応じた大学教育の可能性を開いたことです。その出発点は、やはり1991年の「大綱化」でしょう。これによって、社会に「国が高等教育のありようを固定的に決めていること自体、時代の流れに反する」との認識が生まれました。私立大学では、例えばくさび型カリキュラムなどによって大綱化を先取りした面がありますが、制度化されたことで、国公私立が一斉に大学教育の中身を見直すことになりました。
 もう一つは、量的緩和が私立大学の経営を間接的に支援していることです。文科省はいまだに学生の定員管理を廃止するとは言っていませんが、最近弾力化の方針を打ち出していることは、大いに評価しています。なぜなら、設置認可の届け出制に加えて、定員の変更についても量的な緩和を行うことで、学部や学科のリストラクチャリングが可能になるからです。
 これは、収入の7割を学生の授業料に頼っている私立大学では特に大きな意味を持ちます。社会や学生の意向を反映させるためには、ニーズに合わなくなった学部・学科を厳しく見直さなくてはなりません。しかし、学生と教員を抱える以上、企業のように簡単に不採算部門を切り捨てることはできません。そこで、新しい学部・学科に改組することで、古い学部・学科を徐々に調整する手法をとってきました。定員の弾力化は、私立大学の構造改革を助けると同時に、経営の安定にも寄与しているのです。

―規制緩和については、いくつか問題点も指摘されています。

大南
 影の部分があることは否定しません。「大綱化」によって一般教育が軽視され、大学における教養教育の位置付けが曖昧になってしまったことはよく知られています。届け出制や量的緩和によるニーズに即した学部・学科の設置は、ある意味で学生や社会への迎合にもつながります。迎合が顕著になると学位(ディプロマ)と資格が一体化し、資格を取るための教育に陥るという懸念もあります。
 とはいえ、これらは各大学の見識によって乗り越えられるものと信じています。大学には学問の進化や学術を次世代に継承するという使命があり、学問に裏付けられたカリキュラムを備えています。これは伝統的な大学教育のイメージではありますが、決して間違ってはいません。だからこそ、どの大学も、カリキュラムで学問的裏付けと社会のニーズとのバランスをどうとるかを工夫しているのです。
 最近では多くの大学が、教育力向上やキャリア支援を打ち出すようになりましたが、これもそうした工夫の一例だと思います。



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