ベネッセ教育総合研究所
特集 教育の質をどう保証するか
大沼淳
日本私立大学協会会長
文化学園理事長
大沼淳
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【規制緩和をこう考える】
グランドデザインなき緩和は根幹を揺るがす

校地、自己資本の規制は必要

―設置審査の簡略化なども含めて、最近の大学設置に関する規制緩和政策をどう評価されますか。

大沼
 規制緩和は本来、国の大きな施策の方向性に基づいて行われるべきものです。その方向性をきちんと提示し、そこにつながる高等教育のあるべき姿、つまりグランドデザインを示した上で、必要であれば規制を緩和するというものでなければならないはずです。ところが昨今は、規制緩和ありきという考え方が先行し、教育の必要性から生まれたものではない緩和になっています。
 本当に国民が望んでいるかどうかという議論すらされない中での規制緩和は非常に危険で、後々大きな問題を生みかねない。ここで一度立ち止まって、規制緩和によるメリットとデメリットを点検する必要があるのではないでしょうか。
 そもそも高等教育市場はすでに飽和状態で、量的な緩和はもはや必要ないはず。それなのに、市場原理の導入という大義名分の下、どんどん作らせるという方向に動いています。これも教育の長期的なビジョンがないからです。
 規制緩和をするなら、まず大学院、大学、短大、高専、専門学校と区別されている学校群の差別化をどうするのか、さらに国公私立の区分をどう位置付けていくのかといった、大きなデザインが必要ですが、今回の答申でも、そのことにはほとんど触れられていません。グランドデザインなき規制緩和は大いに疑問です。

―では、何を規制して、何を緩和すべきだとお考えですか。

大沼
 大学は生涯学習を支援する教育機関であると同時に、国の将来を託す人材の養成機関でもあります。そこでは長期的、安定的な教育体制が何よりも重視されなければなりません。その意味で、校地や校舎の面積、教職員数、自己資本比率などについての設置基準は、大学の根幹部分に関わるものといえます。これらの規制に関しては、ある程度の厳しさがあってしかるべきだと思います。
 逆に緩和すべきなのは、大学のカリキュラムに関する規制です。特に設置審における教員審査は大きな障壁といえます。産業構造の変化に対応して大学もどんどん変わらなくてはならないのに、旧来の学問体系で育った教員しか認めない審査では、新しい大学教育を作り出せません。私の大学でも、学部新設の際、新しいことに意欲的な若い教員で固めようとしてもなかなか認められず、国立大学の教授経験者などでなければ認可されない、という経験をしています。最近はやや緩和されてきたとはいえ、教員審査は依然として高いハードルといえます。
 安定した教育体制を保証する設置基準は厳しくして、設置後の教育は各大学に任せるべきだと思うのですが、現在の規制緩和はその逆のように思えます。

―株式会社立大学が参入し、新しい大学教育の可能性が広がったように見えますが。

大沼
 基本的には、株式会社立大学には反対です。教育機関としての財政基盤がまったく異なるからです。投資して利益を上げることが株式会社の目的ですから、利益が出なければ大学教育への投資をやめるということになりかねない。これでは長期的・継続的な教育体制とはいえません。
 大学に参入したい株式会社は、学校法人を設立し、財産を公共財として提供した上で、大学を作るべきです。実際、そうしている株式会社もあります。現在、特区に限定されていることが、なし崩し的に全国展開されることには危機感を持っています。



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