ベネッセ教育総合研究所
特集 教育の質をどう保証するか
 
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コア科目の必修化めぐり議論

 03年度には日本初の知的財産学部を設置、その審査の経験が今回に生かせたという。「知的財産は法学分野、とただちに学問領域が判断され、法学の専門委員会の下で法律関係科目が重点的に審査される。そこで今回はコア科目に民法や知的財産法などを組み込み、その上に発展科目を載せる構成にした」。その結果カリキュラムへの注文はほとんどなく、参考人の「判例研究科目に6単位も必要か」という意見も不問に付された。
 しかし、コア科目の必修化をめぐってはぎりぎりまで攻防が続いた。当初、知的財産学部からの進学者や法学部出身の学生には民法など一部の科目を免除する予定だった。しかし設置審の「学部教育で大学院の教育を代替することはできない。必修科目と位置付ける以上、例外なく課すべき」との強い意見の前に、当初案を撤回。結果的に1年制コースの設置は実現しなかった。「多様なバックグラウンドの学生を受け入れるという専門職大学院の理念にもかなうと考えたのですが」と、石井研究科長。
 設置審は、認可に関わる一般的課題の一つとして、本業との兼務で担当コマ数が極端に少ない実務家を専任教員にすることの是非を挙げている。石井研究科長は次のように述べ、この問題提起に理解を示す。「現場と大学との往復で生の情報を提供できる教員はわれわれもぜひ欲しいが、全体の中での適正な比率はあってしかるべき。大学には、終日学生のことを考える教員がやはり一定の割合は必要です」。
 文科省と設置審への要望・期待を聞くと、「審査する側とされる側という立場を離れ、大学教育について自由に議論できる場が欲しい」と答えた。「今回参考人から出たという『大学は知財の専門家をどこに供給すべきか』という意見は、本学の認可には直接影響しなかったが、議論を深めれば後に続く専門職大学院にとって大きな意義があるはず」。
 設置審との議論に時間を費やして認可が遅れたら、学生募集に支障が出る―。これは、多くの大学関係者が抱えるジレンマだと考えられる。その中で埋もれがちな問題意識を、目の前の利害にとらわれることなくいかに顕在化させ、普遍化させ、高等教育全体の質の向上につなげるか。石井研究科長の提案は、そこに一つの示唆を与えてくれそうだ。



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