ベネッセ教育総合研究所
特集 教育の質をどう保証するか
 
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補助金を受ける私大には企業以上に透明性が必要

 昨今、CSR(企業の社会的責任=Corporate Social Responsibility)という言葉が新聞・雑誌等で頻繁に取り上げられ、注目を集めている。定義はまだ確立されていないが、共通した捉え方としては、企業が社会・ステークホルダーからの要請を敏感に感じ取り、経済・環境・社会のバランスをとりながら経営を行い、その結果とプロセスを公表して説明責任を果たすこととされている。
 CSRはもともと、欧米諸国で1990年代後半くらいから、環境汚染や多国籍企業による労働搾取等の問題を契機として広がった概念である。企業は経済の面だけでなく、環境問題や労働問題に対しても社会の一員としての責任を果たすべきである、という考えから生まれたといわれている。欧米では、CSRの取り組み度合いを評価軸として投資を行うSRI(社会的責任投資)ファンドが大きな影響力を持ち、企業を監視する役割を担うNPOやNGOの成長もCRSを後押ししてきた。
 日本では、企業の不祥事がきっかけでCSRへの関心が高まってきた。不祥事への対応を誤ると企業の存続を脅かすようになったことが、CSRの議論に拍車をかけた。日本のCSRは欧米のCSRと発展過程が異なり、どちらかといえば、不祥事にどう対処するかというコンプライアンス中心の取り組みが目立つ。
 こうした企業の取り組みを、教育機関である大学はどう考えたらよいだろうか。大学の社会的責任を考える上では、CSRをそのまま適用するのではなく、大学としての特殊性を加味したUSR(University Social Responsibility)という新たな概念が必要と考えている。CSRにおいては、経済だけでなく環境・社会のバランスが取れたマネジメントが必要とされるが、この考え方は大学にはそのまま適用できない。企業の目的は第一に利潤追求であり、社会貢献等は高次の責任と考えられているのに対し、大学は教育・研究を通じた社会貢献が第一の社会的責務だからである。USR(大学の社会的責任)を考える上では、CSRの議論を踏まえながらも、今一度大学の存在意義・社会的責務を再考する必要があろう。
 こうした問題意識から、私立大学21校が中心となってUSR研究会(会長=芝浦工業大学藤田幸男理事長)が設立され、新日本監査法人がアドバイザーとして参加させていただいている。研究会の設立の根底には、「国から補助金を受ける私立大学には、運営の透明性・適正性は、民間企業以上に求められる」という理念がある。さらに、「私立大学の使命は、多様な分野で活躍する人材の輩出にあり、より良い教授、学生を集めるためには、この大学で学びたい、働きたいと思われる環境の提供が強く求められる」という考え方に立っている。
 これらを踏まえ、私立大学のUSRについて研鑚を深め、大学運営と情報開示のあり方について研究し、報告書を作成し一定の指針を示すことが研究会の目的だ。04年12月には研究報告として「USRフォーラム」を開催、研究の中間報告書を公表した。



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