ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる個人情報の保護と活用法
(株)進研アド
マーケティング企画推進部
永井 良政
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学生募集における個人情報の扱いをどう見直したらよいか

学生の情報の扱い方とは異なる認識を

 大学が管理する個人情報には、在学生、教職員に関するものがあるが、もう一つ忘れてはならないのが、資料請求などの接触者や出願者の個人情報である。
 大学に帰属し「身内」ともいえる学生や教職員であれば、万が一情報が漏洩しても、本人への伝達や対処が速やかにでき、大事に至らない可能性もある。しかし、接触者や出願者にとって、その大学は普通、入学したい大学の中の一つに過ぎない。そこから自分の個人情報が漏洩した場合、その大学に対するイメージは途端に悪くなり、志望校からはずすことも大いに考えられる。保護者や高校教員の受け止め方も同様だ。加えて社会は、大学との関係において接触者や志願者を「弱者」とみなしがちで、弱者擁護の立場からマスコミが大学の責任を厳しく追及することも考えられる。
 これらの問題を未然に防ぐため、大学は、接触者や出願者の個人情報については特に慎重に扱う必要がある。では、具体的にどのような場面でどんなことに気をつければよいのか、例を挙げながら考えてみたい。

課題1 資料請求者情報の使用目的の明示
 資料請求者は、住所・氏名・メールアドレスなどの個人情報を記入した上で大学に接触する。多くの大学は、請求された資料を送った後も、これらの個人情報のリストを大学の所有物と認識し、オープンキャンパスの案内状やメールマガジンなどを送付している。しかし、個人情報保護法にもとづき、このような情報の取り扱いに対してクレームが出る可能性がある。
 資料請求者に対して、記入してもらう情報をどんな目的で利用するのか具体的かつわかりやすく伝えた上で、実際にその範囲内での利用に限定しなければならない。具体的にいうと、請求された資料の発送だけでなく、それ以降も、資料やメールマガジンを発信するためや、その資料請求者が最終的に出願したかどうかを調査するためにも利用する旨を明示しなければならない。
 その文章例は次の通りだが、一方的に通知するだけでなく応諾を取り付ける必要がある。

文章例
ご記入いただいた個人情報は、学内で管理し、大学案内や願書、オープンキャンパスの案内など本学の最新情報やメールマガジンの発信のため以外には使用しません。ただし、学内資料作成のために個人を特定しない形で統計的な調査に使用する場合があります。
課題2 出身高校への入試成績の提供
 現在の学生募集においては、情報誌などで情報を発信して受験生からのアプローチを待つ手法に加え、高校訪問が重要なものと考えられている。そこでは、高校教員に何を伝えるかということがポイントになる。多くの大学が、その高校から入学した学生の入試の成績や大学生活の状況、就職の情報などを伝えているのではないだろうか。
 これらの情報も、法で保護の対象となる学生の個人情報であるという認識を持っていただきたい。学校長推薦であれば入試の成績を高校へフィードバックするのは当然のことだが、一般入試などの成績を高校に伝える場合は、第三者への情報開示について本人の応諾をとる必要がある。
 では、いつそれを取り付ければいいのだろうか。基本的には、出願時や入試当日に次の文章例のような形で第三者への情報提供について伝え、諾否を問うべきだろう。具体的には、出願書類や入試問題に、入試成績に関する情報を第三者に提供する可能性を明記した上で、出願を応諾とみなしたり、答案に氏名を記入して提出することで応諾とみなす、ということになるだろう。
文章例
●A案
あなたの入試結果を出身高校にお知らせします(する場合があります)。
●B案
あなたの入試結果を出身高校にお知らせしてもよろしいですか? 知らせてほしくない場合には、次の□にチェックを入れてください。
→□知らせてほしくない
●C案
あなたの入試結果は、いかなる場合にも本人以外にお知らせすることはありません。
 C案については、特に記載する必要はないかもしれないが、この一文によって大学に対する受験生の信頼度が増すことも考えられる。

課題3 出願書類の記入項目の見直し
 受験生に出願書類に記入させる項目についても、見直す必要がある。多くの大学で家族構成の記入欄があるが、それは入試判定に関わるのだろうか。言い換えると、家族構成によって不合格にすることがあるのだろうか。
 個人情報管理の観点からは、必要な情報以外は持たないというのが大原則である。余計なリスクを回避できるからだ。逆に言うと、情報の項目が多く、特にセンシティブな情報が多ければ多いほど、予期せぬトラブルが起きたときに大事に至る可能性がある。
 従って今後は、出願書類などに記入させる項目は最小限にとどめるべきだ。仮に、家族構成などの情報が必要なのであれば、利用目的とその情報が直接合否には関係しないということを明記する必要がある。

課題4 個人情報利用に関する照会者への対応
 大学には、受験生から「なぜ請求してもいない資料が送られてくるのか?」「今後、資料を送らなくていい」という連絡を受けることも多いのではないだろうか。保護者の中には、子どもの個人情報がどこかから漏洩・流出したのではないかと不安にかられ、本人に確認もしないでいきなり問い合わせてくることも多いようだ。
 大学にとっては基本的にはネガティブな連絡ではあるが、ここでうまく対応すれば、その後も引き続き資料を送ることについて同意を得られたり、好感度が増し志望順位を上げてもらうなど、チャンスに転換できる可能性もある。
 そのためには、当たり前のことであるが、誠意を持った対応が必要になる。対応窓口を一本化することで、電話口で長時間待たせたり、対応内容がその都度異なるようなことをなくすべきだ。
 今後は接触者へのあらゆる発送や発信の挨拶文に、次に例示するような一文を必ず記載する必要がある。こうした意思確認の姿勢をきちんと接触者に伝えることが、その大学の個人情報管理に対する安心感、ひいては信頼につながるはずだ。
文章例
今後、本学からの資料の発送やメールマガジンなどでの情報提供が必要ない場合は、以下宛にご連絡ください。また、氏名の間違いや住所変更などがある場合も、下記までご連絡ください。
受付窓口 TEL 0120-XXX-XXXX
受付時間 9:00〜18:00(土・日・祝のぞく)


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