ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる個人情報の保護と活用法
 
PAGE 29/29 前ページ


個人情報保護法では結果が求められる

 篠塚事務部長によれば、Pマークを取得したことによる患者からの反響はほとんどないという。「むしろ入院患者の親戚などからの、患者の情報開示が厳しいことへの不満の方が大きいのではないか」。しかし、取得のメリットについては次のように語る。「Pマーク取得を社会に公表することで、自分たちが個人情報保護にしっかり取り組んでいることを広くアピールできる。また、病院のスタッフとして何をすべきかが明確になり、定期的な内部監査や更新審査によって、常に個人情報保護に対する意識を喚起し続けられる利点は見逃せない」。
 Pマークの取得プロセスを通して、具体的な作業の流れと、マネジメントシステムのあり方を把握できた河北総合病院では、個人情報保護法の施行によって、これまでの枠組みを大きく変える必要はないと考えている。しかし、個人情報保護法およびそれをベースにした厚生労働省のガイドラインの要求事項と、Pマークの要求事項は若干異なるため、現在、厚労省の要求事項にも合うように修正作業を進めている。
 ポイントは次の3点。
  1点目は、個人情報の利用目的を公表することだ。厚労省のガイドラインでは、より具体的に明示することが求められている。河北総合病院では、02年9月から「個人情報の取り扱いについて」とする文書を患者に配布していたが、利用目的をさらに細かく提示する改訂作業を進め、患者への配布はもちろん、院内掲示やHP上でも公開する予定だ。

  2点目は、学会発表などで匿名で個人情報を利用する場合や、患者に氏名での呼び出しを拒否された場合、警察から任意捜査依頼を受けた場合など、具体的な事例についての検討と、それに伴う基本規定の見直し作業だ。「呼び出しについては、氏名で行ってほしいという患者もいるため、個人情報保護法ではそれほど強く求められないのではないか」(篠塚事務部長)との認識は持っているが、それらのすり合わせを行うことになる。

  3点目は、情報セキュリティの見直しだ。電子カルテは外部接続できないように厳重に管理されているが、それ以外の院内LANは、インターネットの接続箇所が複数あるなど、セキュリティ面が脆弱なため、その強化を計画中だ。また、内部からの漏洩リスクを最小限にするため、04年11月には非常勤を含めた全職員に「個人情報保護に関する誓約書」の提出を義務付けた。

  篠塚事務部長は、「個人情報保護法は、保護に関してどこまで行わなければならないかを明確にしておらず、プロセスではなくアウトカム(結果)が問われる法律。莫大な費用をかけて情報セキュリティを構築しても、情報が漏洩しないという保証はない。職員の意識向上や、運用規定の徹底など、現実的に対応していきたい」。
 大学と病院では組織の形態が異なるが、患者の情報と学生の情報は、常に有効利用を図りながら保護すべきものという意味ではよく似ている。河北総合病院における情報管理の方法や、コストをかけずに運用面を強化していく手法に、学ぶべき点は多い。


PAGE 29/29 前ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse