特集 学生の活力を改革に生かす

溝上慎一
溝上 慎一(みぞかみ・しんいち)


1996年大阪大学大学院人間科学研究科・博士前期課程修了。96年4月に京都大学高等教育研究開発推進センター助手となり、講師を経て03年から助教授。京都大学博士(教育学)。著書に『現代大学生論』(NHKブックス)、『学生の学びを支援する大学教育』(編者、東信堂)などがある。

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学生の活力を改革に生かす

学生は大学の最大の資源 ―― 。そんな発想の下、従来、教職員が担っていたイベント等の企画・運営に学生を巻き込む大学が増えている。受験生に近い目線から生まれるアイデアがオープンキャンパスを活気づけ、授業改善に関する主体的な発言が教員に刺激を与える。学生の活力を巧みに引き出し、改革に生かしている大学では、どんな工夫をして、どんな“副産物”が生まれているのだろうか。

【インタビュー】
京都大学高等教育研究開発推進センター助教授 溝上慎一

学生が求めているのは「居場所」と「コミュニケーション」

学生を大学運営に巻き込むことは、大学にとってどんな意義やメリットがあり、いかなるノウハウが求められるのだろうか。京都大学高等教育研究開発推進センターの溝上慎一助教授に聞いた。

学生に内在する活力を利用

――大学改革に学生を巻き込む動きが活発化していますが、その背景をどうお考えになりますか。

溝上 まず指摘しておきたいのは、大学には、自分たちのキャンパスライフをよりよいものにしようとする活力を持った学生が少なからず存在していて、そうした学生がこれまでにも大学教育を支えてきた側面があることです。代表的な例が生協活動です。学生委員が自主的かつ組織的に、入学時の下宿の世話から履修相談に至るまで、多方面にわたって学生を日常的に支援する活動を展開しています。つまり、大学にはもともと学生による改革ダイナミクスが備わっているのです。
 最近の、学生を巻き込んだ大学改革の傾向は、従来から存在するダイナミクスを大学側が組織的に活用し始めた、あるいは大学の運営組織の一部として組み込むようになってきたと考えてよいと思います。

――そのメリットは何でしょうか。

溝上 大学運営に学生を巻き込むことに成功すれば、その経験を通じて学生の確実な成長が見込まれることが最大のメリットです。ほとんどの学生は、社会に出れば何らかの組織に所属することになります。在学中に大学という組織の改革に関わったり、ボランティアとして組織的な活動に取り組むことは、社会人としての意識を高める上でも大いに役立ちます。また、そのような意識の高い学生が増えれば、ほかの学生にも影響を与えて、キャンパスに活気が生まれ、大学全体の活性化につながります。

――学生の活力が改革の有効な手段であることに、大学が気付き始めたわけですね。

溝上 そう言っていいと思います。大学改革は、大学の在り方を変革することによって、学生の変化を目指すものだといえます。大学の変化には、「学生を変える」側面と、「学生が変わる」側面があります。前者は、教学システムなどを改善・変革することによって、大学が学生を枠にはめて変化させようとする動きです。大学改革の事例でいえば、GPA制度導入に代表される厳格な成績評価や出席管理、必修科目の増加などが挙げられます。後者は、学生の自発的な学習や研究の支援、ボランティアやインターンシップの積極的な推奨などによって、学生が自ら変化するよう促す取り組みです。
 大学設置基準の大綱化以降、多くの大学は学部・学科の改組、教養科目の廃止や全学カリキュラムの導入といったカリキュラム改正など、教学システムにおける改革を進めてきました。学生による授業評価を導入するなど、学生からのレスポンスを組み入れた改革を行う大学も一部ありましたが、ほとんどはシステムをいじるハード面の改革が中心でした。
 しかし、そうした改革では、学生が意欲的に勉強するようになるという意味での変化はあまり見られなかったように思います。各種調査によれば、学生の授業出席率は以前に比べて上昇傾向にありますが、実態は「単に席についている」だけで、学ぶ意欲の向上とはダイレクトに結び付いていません。そのため現在では、学生のアカデミックなモチベーションを高めることで、「学生が変わる」ような取り組みが模索されているわけです。
 現実的には「学生を変える」改革と「学生が変わる」改革の両方が必要で、多くの大学はそれらのバランスを考えながら、改革を行っている途上にあるといえます。


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