新しい姿の積極的なアピールが不足

　農学は、国の政策や社会の動きに歩調を合わせて発展し、変化してきた学問といえる。戦前から戦後にかけての食料増産期に、国立大学を中心に数多くの農学部が設置された。そこでは国民の食料を安定的に確保するための研究が中心だった。しかし、高度成長期以降、減反政策と輸入食材・食品の増加により、学問内容が変化した。食の安全性や流通の研究にも比重が置かれるようになったのだ。
　農学部に一大改革をもたらしたのが、1980年代後半から90年代にかけてのバイオテクノロジーブームだ。遺伝子組み換え食品など、生物のメカニズムを利用した食品開発が研究の中で大きな比重を占めるようになった。90年代半ばからは、地球環境の汚染が大きな問題となり、様々な生態系と共存する農業のあり方についての研究も重要視されている。
　農学部は、こうした社会の変化や新たな学問分野の誕生に呼応して、領域をどんどん拡大してきた。しかし、農学部というと、依然として「農業を志す者のための学部」というイメージを抱く人が多いようだ。これは、農学部の新しい姿を大学が積極的にアピールしてこなかったからだろう。
　研究領域が拡大しても、農学本来の目的は食料の生産・供給に関する研究が中心であることは変わらない。今や、わが国の食料自給率は40％を切り、多くの食材を輸入に頼っている。健康志向が高まり食の安全に関心を持つ人が増える中、安全な食品の安定的確保が重要な課題となっている。そのような課題に対して農学部が果たす役割への期待はますます大きい。