特集 「学士課程教育」の構築

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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【“国際教養”の可能性 3】

「自分を語るフレーム」を構築するための新教養教育

多摩大学学長 中谷巌

(07年度「グローバルスタディーズ学部(仮称)」を新設予定)

学士課程の専門教育には限界

 多摩大学では2007年度、新たなキャンパスを設け、グローバルスタディーズ学部(仮称)を新設する予定だ。本学は創立以来17年間、経営情報学部で、ビジネス界で活躍できる人材の育成を目指し、実学重視の教育に力を入れてきた。新学部のコンセプトは「新教養教育」だ。少人数ゼミなど経営情報学部の特色も一部取り込み、これまでにない大学教育を打ち出す。
 なぜ今、教養教育かというと、「大きな木を育てるには、土壌をしっかり耕す必要がある」と考えるからだ。仕事でも学問でも、基礎の部分がしっかりしていなければどんな力も伸びない。戦後の日本の大学教育には、この視点が決定的に欠けていたと思う。
 外国のビジネスマンから、日本のビジネスマンはつまらないという話をよく聞かされる。いきなり商談など本題に入り、ビジネス以外の会話でコミュニケーションを深められる人が少ないというのだ。日本の大学にリベラルアーツがないことを示す象徴的なエピソードだろう。
 しっかりした世界観の中で自分を位置付け、自身の考えを持ち、相手の立場も認めるという人間としての土壌がなく、その場ごとの状況追従的な対応しかできない。これでは、ビジネスをはじめとする国際競争の中で、優位に立つことはできない。
 日本の大学では、教養教育の中身が担当教員の専門分野に偏りがちだ。例えば、哲学の授業ではひたすらサルトルの話をし、この学問の本質、深さを伝えきれていない。教員同士の調整もないから、体系的な内容にもならない。そんな教養教育を学生が面白いと感じるはずがない。
 そこで、新学部では、「自分が何者であるかをきちんと説明するためのフレームワークを作る教養教育」を、4年間かけて徹底的に行う。どんな文化的背景の中で育ち、どんな考え方の人間であるか、明確に語れるようになることがゴールだ。そこまで自分を掘り下げれば、やりたいことがおのずと見えてきて、そこから先に何を学べばいいかが分かる。
 それでは、専門性が身に付かないと思われるかもしれない。しかし、現状でも、学士課程段階の専門教育は、その分野の専門家として社会で通用するレベルとは言いがたい。
 卒業直後は、例えば経済学部などで専門知識を身に付けた人と差が出るかもしれない。しかし、土壌のしっかりした人は、学ぶべきことがはっきりしていて、吸収力も高い。仕事を通して自ら学ぶ能力にたけているし、卒業直後でもいったん社会に出た後でも、大学院に進むという選択肢がある。だから、大学で従来型の専門教育を受けた人を、いずれ追い越すはずだ。


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