特集 「学士課程教育」の構築

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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【伝統的分野に新しいコンセプトを 1】

体系的な経済学にこだわらず経済学的思考の枠組み修得を

大東文化大学経済学部

学習意欲の低下に危機感

 大東文化大学経済学部は、2001年度に経済学科を現代経済学科と社会経済学科に改組するのに合わせ、カリキュラムを大幅に改革した。経済学を体系的に教える教育から、経済学的なものの見方を身に付けさせる教育へと大きく方向転換した。
 当時、経済学部では、学習意欲や学力の低下という問題を抱えていた。そこで、意欲を喚起するため、専門の必修科目を極力少なくし、選択科目を数多く開設して、学生の自主性を引き出す工夫をした。しかし、いわゆる「楽勝科目」に流れる傾向を助長することになり、学生の質の保証という点で問題が出た。
 カリキュラム改革の中心的存在であった中村宗悦教授は「経済学部を卒業する以上は、少なくとも経済学的思考の枠組みは修得してほしい。そのためには、教育内容を全面的に見直す必要があった」と語る。
 新カリキュラムで打ち出した基本理念は「教養としての経済学」。新制大学が教養教育に真剣に取り組んでこなかったとの反省に立ち、経済学を出発点とした「新教養教育」を試みようというものだ。学部としては、検討中の改組に新教養教育をどう反映させるかが課題だった。
 学内論議の中では、国際経済学科や情報経済学科など当時の時流に乗った学科や、資格取得を支援する学科が提案されたという。
 しかし、最終的には、あくまで新教養教育という観点を重視する方向を確認。現代経済学科と社会経済学科の2学科を設け、経済学のコアの部分を確実に修得させ、その上でそれぞれ学科の特色を出すことになった。社会経済学科では、コアを充実させるために社会学や国際関係学など周辺領域も学べるようにした。現代経済学科では、アプローチの手法としてデータ分析などを取り入れた。
 経済学のコアの部分として重視したのは、「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」だ。「経済学は大学で初めて接する学問であり、できるだけベーシックなものに触れる方がいい」と考えたという。
 ただし、知識だけを教えても経済学的なものの見方は育たない。そこで、新カリキュラムではゼミを重視。1年次の「基礎演習」を必修とし、専門ゼミである「経済学演習」は2年次から開講。卒業研究まで含め4年間のゼミ教育によって、社会の問題に自ら関わる姿勢を身に付けさせることを目指した。
 「経済学に接することを通して、主体的にものを考える能力を涵養すること。これが『教養としての経済学』の本質」と、中村教授は語る。
 教養という言葉には、戦前のエリート教育あるいはアメリカ型のリベラルアーツのイメージが強い。単に、専門教育との対比で捉えられることもある。同学部が掲げる教養はそのいずれでもなく、経済学的なものの見方という「ツールとしての教養」だという。「経済学の専門教育を否定するのではなく、専門教育そのものを『教養』として捉え直そうということ。つまり、新しい形の専門教育でもあるといえるのではないか」。


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