「改行！計画」は、文部科学省が2005年夏から取り組んでいる広報力強化に向けた活動の総称だ。2008年の庁舎移転を控え、組織・職員の広報力を強化し、建物だけでなく中身（行政の在り方）も「改める」という意味が込められている。私は「改行！計画」を推進する「コミュニケーション活動強化のためのタスクフォース（以下、広報タスクフォース）」の一員だった。本稿では、私自身の問題意識や所見を交え、この活動について紹介する。
庁舎移転が「改行！計画」を始めるきっかけとなったが、広報力の強化を必要とする理由は別にある。
文部科学省の業務は非常に広く、教育に絞っても、学力低下論議や構造改革の激流の中、ここ数年、様々な課題が生じている。例えば、学習指導要領の改訂、学校週５日制の導入、それらに続く学力対策の動きに対し、教育委員会や学校関係者の間には、「現場のことを知らな過ぎる」「方針がくるくる変わる」といった不信・不満が（一部誤解も含めて）ある。私を含め、地方へ出向した経験がある職員の中には、改革のパートナーである彼らが、国を冷ややかに見ていることを肌で感じ、危機感を抱く者が少なくない。
文部科学省への不信感は、教育関係者だけでなく、各界のオピニオンリーダーの間にも生じている。義務教育費国庫負担制度をめぐる論議では、廃止論の背景に政策的な合理性とは別に、「国は信頼できないから地方に任せる方が良い」という認識が垣間見える。
また、私が関わっていた大学設置認可をめぐっても、設置基準や審査の在り方について、「国による悪しき参入規制」と決めつけるような言説が力を増していた。その中では、教育の質を保証して学習者を保護し、国際社会での通用性も確保するという制度の存在意義が軽視される風潮にあった。
これらは一部の例にすぎない。それぞれの部署の業務を通じ、「良い政策を立案し、実行するためには、現場関係者や各界との双方向のコミュニケーションが必要」という問題意識が、職員の間に広がりつつあった。
こうした職員の危機感を広報室がヒアリングによって集約した結果、生まれたのが広報タスクフォースだ。担当は各部局の企画官級７人に、公募に応じたボランティアの若手職員（省内では前例がない手法だ）を加えた。
最初の会合では、事務次官が「小粒でもピリリと辛い政策官庁を目指そう」と訓示を述べた。文部科学省は、職員約2200人（1000余りの大学等を相手とする高等教育局は約200人）の小さな省だが、様々な事業の執行だけでなく、的確な現状分析に立脚した政策官庁として、ピリリとした存在感を示そうというわけだ。
それには、政策を一方的に宣伝するのではなく、双方向のコミュニケーションを強化し、政策の質と実効性を高めていくことが肝心だ。情報が氾濫する今日、波間に浮かぶ泡沫のような「キャンペーン行政」では、せっかくの取り組みも浸透しない。
そこで、職員一人ひとりのコミュニケーション力を向上させるため、広報室による様々な研修会を実施した。分かりやすいプレスリリースやパンフレット等の作り方、メールマガジンの活用法などを学び、まずは情報発信力を高めることに力を入れた。
|
PAGE
1/5
