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Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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【東北大学工学部の取り組み】

作家が工学の奥深さを語りかけ
女子にはキャリアパスを明示

学部・学科紹介ではなく、素人目線で関心に応える

 学問内容の分かりにくさが工学部を敬遠させ、特に、女子からの人気のなさが悩みの種。東北大学は、工学部に共通するこれらの課題の解決に取り組んでいる。大学院工学研究科の中橋和博教授は、「工学部離れ」の原因を次のように分析する。
 「工学部の教育・研究内容は多岐にわたる。例えば、機械系の学問は、単に機械が動く仕組みを扱うだけでなく、コンピューターやバイオなどの領域も含む。複合領域の拡大は世のすう勢だが、それが工学部のイメージを分かりにくくしているのは事実だ」
 加えて、工学部出身者の社会的地位についても言及する。「一般的に工学部の学生は学習量が多い。文系の学生が大学生活を楽しむのを横目に、実験やレポートに追われる。半面、工学部出身者が社会で特に良い待遇を受けているわけではない。勉強が大変な割に社会で報われないという意識が、高校生にも浸透しているのではないか」。社会的評価や待遇には代えられない学問的な面白さや社会貢献につながる喜びを伝えることが、課題だという。
 そこで同大学工学部では、工学の魅力を高校生や一般の人に伝える取り組みに力を入れる。工学部機械系のウェブサイト上で展開する「瀬名秀明がゆく!」は、その目玉だ(図1)。「パラサイト・イブ」「BRAIN VALLEY」などの作品で知られるSF作家の瀬名秀明氏が、同大学の教員や学生との対談、研究室訪問を通して、工学の面白さ、奥深さを語りかける。瀬名氏は東北大学大学院薬学研究科博士課程を修了しており、2006年に工学部特任教授に就任している。
 中橋教授は「教員が専門家の視点から説明すると、難解になりがち。一般の方の関心に応える形でかみ砕いて文章にする技術は、小説家の方が長けている。瀬名先生はロボットに関する著書も多く、工学部のスポークスマンとしてはうってつけ」と評価する。
 同サイトの特徴は、瀬名氏があくまで科学の素人として、専門家から話を引き出している点だ。ある時は、マイクロマシンやロボット研究の第一人者にインタビューし、研究がもたらす近未来の姿を描く。ある時は、機械系のオープンキャンパスに参加し、研究室でシミュレーターや実験を体験する。大学の視点で提供する学部・学科情報とは異なり、読者の視点に立った語り口が魅力だ。
 「若い人に対しては、技術的な細かい話より、夢を語ることが大切。20年先にはこうなる、研究が完成したらこういう世界が待っていると、明確なビジョンを語ることが何よりのアピールになる」と中橋教授。

図表

図1
「瀬名秀明がゆく!」
東北大学工学部機械系のウェブサイト内の「瀬名秀明がゆく!」のコーナー。ロボットをテーマにした小説の執筆を通じ、東北大学の田所諭教授と出会ったことが、瀬名氏の特任教授への就任、ウェブサイトへの登場につながった
http://www.mech.tohoku.ac.jp/sena/index.html

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