知的な刺激と人とのつながりを求めて入居

　アメリカでは規模の大きな老人ホームのことを「リタイアメントコミュニティ」と呼ぶ。カレッジリンク型コミュニティは、キャンパス内またはキャンパスからそう離れていない所に立地し、大学と連携して運営される。
　本格的なものができたのは、６年ほど前だ。平均寿命が延び、娯楽に興じるだけでは飽き足りないシニア層の増加が、その背景にある。アメリカでは1960年代からリタイアメントコミュニティが登場したが、1980年代後半に急増し、競争が激しくなった。新しい付加価値によって差別化したいと考えるコミュニティ運営者が、知的好奇心の高い人に着目したわけだ。
　大学にとっても「地域に開かれた大学」「社会貢献をしている大学」ということがイメージアップにつながる。入居者は大学への愛着がわき、寄付を期待しやすくなる点も見逃せない。
　学生にとっても利点が多い。例えば、歴史の授業で入居者に自らの戦争体験を語ってもらうと、生きた歴史を学べる。また、入居者が学生のメンター（助言者）となり、就職相談や人生相談に乗ることもある。学生にとって心強いだけでなく、頼りにされることで入居者も元気になれる。
　地域への経済効果も大きい。広大なリタイアメントコミュニティの建設には、それなりの規模の投資が必要になる。新たな雇用が生まれ、住民が増えた分、地域に落ちるお金も増える。

　アメリカでは、現在約20のカレッジリンク型コミュニティが運営されており、さらに40近くが計画中だ。
　運営方法は多種多様。最も多いのは、リタイアメントコミュニティの運営者であるＮＰＯと大学が提携する形態だ。フロリダ州にある「オーク・ハンモック」は、その一つ。これは州立フロリダ大学の元学長が代表を務めるＮＰＯが運営していて、フロリダ大学と提携している。特殊な例としてはマサチューセッツ州の「ラッセル・ビレッジ」がある。私立大学のラッセル・カレッジが自ら非営利の運営会社を設立し、キャンパス内にリタイアメントコミュニティをつくり、カレッジリンク型として運営する。
　入居者用のプログラムは文学や哲学、歴史、政治、法律、音楽といった人文科学系、芸術系の科目が多い。数学や物理などの自然科学や、資格取得に関する講座はほとんどない。単位を修得できるケースもあるが、それを目的に入居する人はほとんどいない。皆、純粋に知的好奇心の充足や人とのつながりを求めて学んでいる。ラッセル・ビレッジでは、学生とほぼ同じ年450時間以上のクラス参加が義務付けられているが、2000年の開設とほぼ同時に定員210人が埋まり、常時100人以上が入居待ちの状態だ。
　クラスのレベルは高い。若い頃、その分野について学んでいたり、その大学で教員を務めていたりするケースもあり、時には入居者自身が講師となる。シェークスピアの高度な解釈や、イラク政策についての議論など、知的なやりとりが繰り広げられる。
　こうした「知縁（知的好奇心で結ばれる縁）コミュニティ」としてのカレッジリンク型コミュニティでは、高齢者が生き生きしている。ラッセル・ビレッジの入居者の平均年齢は83歳だが、要介護者は210人中５人程度。一般の老人ホームでは、開所後５年で１割が要介護状態になることを考えると、知的な環境がいかに充実感をもたらし、心身を活性化するかが分かる。
　アメリカのカレッジリンク型コミュニティやアンクラージュ御影のようなカレッジリンク型シニア住宅は、今後日本でも増えていくだろう。しかし、単に大学の近くに老人ホームをつくればできるわけではない。学生、教職員と入居者が学び合えるプログラムを企画・提案し合い、信頼に基づいて、コミットする関係性をつくれるかが鍵となるだろう。