ツアーの企画・運営は、橋本助教授のゼミ生である３年生８人（荒木圭史、池際利栄子、稲冨武徳、上野良介、島津綾子、鈴木涼子、土井美樹、松川修平）が担当した。今回の企画は単位にならないサブゼミで、全員が自主的に応募した学生だ。橋本助教授は、観光における人的サービスを研究テーマとしている。豊富な実務経験と教育に対する熱意への期待から、指導を任された。
　ホテルやバスの手配は旅行会社に依頼。学生は、高校生をどこに案内し、どこで食事や休憩を取り、どこに泊まるかというツアー全体の企画を担当した。５月初旬に企画広報課から企画趣旨と予算額が提示された。予算内で高校生を楽しませ、なおかつ大学の教育について理解してもらうためのプログラムを策定する、それが学生に与えられたミッションだった。
　まず、２週間をかけて各自で試案を作り、それらをたたき台としてコンセプトと目的地などを絞った。「会議の過程では和歌山や神戸といった案も出たが、あくまで本学は大阪の大学。観光資源が豊富でユニークな食文化のある大阪を一つのキャンパスに見立てたら面白いのではないか、という方向でまとまっていった」と、橋本助教授は述べる。「食べて・魅て・学ぶ　ＯＳＡＫＡツアー」というコンセプトは、こうして学生が決めた。
　続いて、具体的な行程を検討した。最も議論が活発だったのは、何を紹介すれば大阪の街の魅力を伝えられるのかということだ。リーダーの上野さんは、「念頭に置いたのは、大阪の活気や人情味が溢れる街の雰囲気をいかに伝えるか、食やお笑いなど、大阪の魅力を体感してもらえるかということ」と語る。一方、同じ大阪でも静かな街もあることなど、別の面も伝えたいと考えた。学生は飲食店やホテルなどの候補案を持ち寄り、検討を重ねた。企画会議は週１回、ゼミ終了後の午後３時から行ったが、議論が白熱し午後９時頃まで続くこともしばしばあった。
　予算の配分にもかなり苦労したようだ。見積もりが甘く、予算をオーバーしたため、行き先を変更したこともあった。上野さんは、「宿泊費やバスのチャーター料は簡単には削れない。しかし、食費を切り詰めたのでは、大阪の味を伝えることができない。最後まで葛藤した」と語る。
　７月前半にはメンバーによる下見ツアーが行われた。散策を楽しみつつ歩くスピード、炎天下での水分の補給ポイントなどを考慮に入れながら、綿密にチェックした。訪問予定のアミューズメント施設が意外に閑散としていることも、現地を訪れて初めて分かった。これでは活気のある大阪のイメージを伝えられない。「行程が一つ変更になれば、ほかの行程に影響が出る。机上で立てた企画を実際に形にすることの難しさを感じた」と、サブリーダーの稲冨さんは話す。
　企画立案から下見ツアー、プログラムの修正まで約３カ月。企画会議は、15回以上に及んだ。一連の議論の過程は同大学のブログで報告され、ツアーに対する内外の期待を高めていった。「当日のツアーが成功することはもちろん大切だが、広報にとってより大切なことは、苦労を重ねながら企画を練り上げていく学生のリアルな姿を見せることだ。参加した受験生だけでなく、ウェブを見る多くの人に学生の努力や熱意を感じてもらうことが、本学の教育をアピールすることにつながる」と黒田主任は述べる。