企画

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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経営環境の変化をめぐる2つの視点

「企業による再生支援」と
「組織力強化による経営安定化」

大学行政管理学会会員 岩崎保道

大学の経営の悪化や破綻が続く一方、基盤強化に向けた再編・統合の動きが活発化している。企業が大学などの再生支援のため教育事業に参入するケースも出てきた。大学の経営問題について研究している学校法人職員に、こうした事例の分析と、併せて経営の安定化における組織力強化の意義について寄稿してもらった。

はじめに
 本稿では、近年の私学を取り巻く厳しい経営環境を紹介した上で、健全な私学経営のための方策を考察する。
 前半は、2005年から2006年にかけて相次いだ、学校法人の経営破綻と民間企業による再生支援に着目し、「企業による経営再建支援」の事例を紹介する。後半では、FD、SD*1など人的資源を原動力とした中長期的な経営の安定化について検討する。
 2006年7月に日本私立学校振興・共済事業団が破綻防止に関する中間報告を公表した。そこで、教学の充実、優秀な教職員の確保など、人材と組織力に言及した点にも注目したい。

大学・短大、専門学校で、経営破綻が相次ぐ

 2006年度の私立大学は568校、私立短大は421校ある。2001年度から、前者は72校の増加、後者は68校の減少と、大きな構造変化が生じた*2。2006年度に定員割れした私立大学は222校、私立短大は193校(図1)。前年度に比べ、大学は62校、短大は34校も増加した。2005年度までは定員割れの学校は減少していた。近年、私立短大の中には、事業縮小や募集停止などの対策を取る学園が少なくない。
 赤字校(帰属収支差額比率がゼロ%以下)の割合は、2004年度は私立大学は28.3%(152校)、私立短大は44.4%(193校)だった。大学は増加傾向にあり、厳しい状況が進行している。
 このような経営環境の中、学校法人の経営破綻が相次いだ。

図表

 2005年6月、中国地方で大学を運営するH学園が学生数の減少を要因として、民事再生手続きを申請した。さらに、同年10月に同じ県内の高校、幼稚園を運営するT学園が設備投資の失敗により経営破綻した。2006年8月には、北海道で短大、高校などを運営するO学園が、学生数の減少により経営が悪化、民事再生手続きを申請した(以上は後段で解説する)。
 専門学校でも同様の問題が相次いだ。2006年4月に、東京で専門学校を運営する学校法人が東京地裁から破産手続き開始の決定を受けた。9月には、京都で専門学校を運営する学校法人が大口債権者から民事再生法の適用を大阪地裁に申し立てられ、財産の保全処分を受けた。いずれも、バブル期の後遺症である債務負担に加え、学生数の減少が経営不振の要因だ。11月には、東京で専門学校を運営する学校法人が東京地裁に民事再生法の適用を申請。不正経理の発覚や恒常的な赤字体質が財政破綻を引き起こした。
 これらは法的な手続きに至った事例だが、学生募集の停止による事業停止に踏み切った学校法人も増えている。2006年5月現在、募集を停止している大学は1校、短大は42校である*3
 九州のX学園が運営する私立大学は、2007年度の学生募集をやめた。工学系の単科大学で、入学者が著しく減少し事業継続が困難と判断された。在学生の卒業後に廃校となる可能性もあると報道された。X学園が運営する短大や高校は存続する見通しだ。
 高等教育市場の供給が膨張を続ける半面、学生確保が厳しくなり経営が破綻するなど、学校法人の問題が顕在化している。定員割れや収支の悪化など経営危機の問題は、多くの学校法人に関わる。学園活性化や破綻防止のためのリスクマネジメントは急務だ。

*1 「新時代の大学経営人材」(山本眞一ほか編著ジアース教育新社、2005年)所収の孫福弘「SDの理論と実践」によると、SD(スタッフ・デベロップメント)とは、「職員の可能性開発。スタッフ個人の可能性開発と集団の可能性開発の二つのレベルがある」
*2 文部科学省「学校基本調査速報」2006年度版
*3 日本私立学校振興・共済事業団 私学経営相談センター 「平成18年度私立大学・短期大学等入学志願動向」

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