特集

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
  PAGE 12/37 前ページ 次ページ

学習面での「適応」と社会的な「適応」

 では、高校から大学への「移行」において、何が重要なのか。濱名学長は2つの「適応」が基本だと言う。
 「アメリカでは1970年代に同様の問題が起こり、初年次教育が普及・発展した。高校から大学への移行問題でよく使われるのは、アメリカの教育社会学者ビンセント・ティントのモデルで、『学習面での適応』(academic  integration)と、『社会的な適応』(social integration)が重要だと指摘している。つまり、学力面で高等教育についていけるように適応することと、対人関係や物理的空間なども含めた大学という社会環境に適応することの2つが達成されて、初めて大学に適応できるといわれている」
 大学にうまく適応できない場合、大学を去る学生がいるが、それには4つの要因があると濱名学長は言う。
 「1つは学習面でついていけない場合だ。私は、学習に関しては“4無”状況が問題であると考える。すなわち、学力が無い、学習習慣が無い、学習動機が無い、学習目標が無い、の4つだ。すべてがあてはまる学生はそれほどいないが、このうちのいくつかがあてはまる学生は、学習面で適応できない可能性が高いだろう。2つ目は経済面、3つ目は精神面での理由だ。特に精神的な問題を抱えている学生が増えており、対人関係がうまく処理できない、もともと心理面で日常生活に支障がある、という学生も少なからずいる。4つ目は進路変更だ。これらの要因が単独で中退に結び付くことはほとんどない。しかし、ほかの3つのどれかと結び付いてしまうと、学生は一気に大学から離れてしまうだろう」
 学習面での適応を考える場合、高校までの基礎学力を補強すればよいと考えがちだが、濱名学長はその意見に懐疑的である。
 「学力の評価基準が一元的で、かつ高校と大学の学びが連続しているという仮説に立てば、そういう発想もあるだろうが、基本的に高校と大学では学びの質が異なる。高校までの学びに対する弱点を補強するだけで、大学での学びに適応させることができる、という考えには無理がある。大学での学びに必要なことを新たに教えなければならない」


  PAGE 12/37 前ページ 次ページ
目次へもどる
大学・短大向けトップへ