特集

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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寄稿 ● 実践を通して考える――導入教育の壁と克服の可能性

「大学文化」にマッチした授業内容が
導入教育の成功の鍵を握る

共著 京都文教大学教授 中村博幸/武蔵野大学教授 矢内秋生

近年、導入教育を取り入れる大学が増えているが、学生の多様性や専門担当教員の不足などの壁があり効果的に進められていないのが現状だ。
では、導入教育はいつ、誰によって、どのように行われると効果的なのか。
特に導入教育について情報交流をする「ガイダンス教育研究会」に所属し、自学で導入教育を担当する2人の教授に、「大学文化にマッチした導入教育」という観点から、効果的な方法を提案してもらった。

導入教育が直面する壁と多様化する学生

 導入教育に取り組む大学は増えているが、必ずしもうまくいっていないのではないか、というのが大学の教育現場を担う者の実感である。本稿では、筆者らが20022004年に「Between」に連載した「深化するFD」「教育力の時代」の記事と授業での体験から、導入教育の壁を乗り越えるための方向性についてまとめる。
 導入教育に取り組む大学が増えた要因の1つとして、「学生の多様化」が挙げられる。ここでは、改めて現在の学生がいかに多様であるかを縦、横、前後の散らばりとして考えてみる。
 縦の散らばりは「学力差」を示す。学力差は学生個人の資質とともに家庭が持つ教育力や教養の差でもある。
 横の散らばりは、学生が大学に入学する「動機の差」のことだ。同時に、自分の将来像と照らし合わせて大学をどう利用するかという大学への期待の中身も表す。これは、保護者の大学観の違いにも関係している。
 前後の散らばりは、学生が入学するまでの「経験の差」だ。現役生、浪人経験者、社会人入学生、留学生のどれに属するかを表す。最近、3年以上の浪人経験者が増えている。フリーターだったが大学に入る気になった新入生、最初に入学した大学に馴染めずに他大学に入り直した学生などである。さらに最近の入試形態はAO入試や、推薦入試、指定校推薦入試などと多様化しており、学生の学力も様々だ。
 このように多様な学生に対して基礎演習で「大学生としての学びの導入」を行うことを考えてみよう。
 ベネッセ教育研究開発センターが実施した「第4回学習基本調査」では、「平均的な高校生は受動的な学習スタイルで主体的に学ぶ姿勢に欠ける」と指摘されている。調査結果を見ると、高校を偏差値帯別に見た「好きな学校の勉強方法」として、偏差値50未満の高校では、グループ学習、学校外での授業や調査が好きという割合が高い。一方で、考えたり調べたりしたことを工夫して発表することをあまり好まない傾向にある。偏差値が50以上55未満の高校の生徒は、あるテーマを個人で考えたり調べたりする体験、グループで何かを考えたり調べたりする体験が比較的乏しい(図1)。

図1

 偏差値50以上55未満と45以上50未満の高校のグループ学習の体験率に大差はないが、その内容は全く異なると想定される。前者は、詰め込み教育よりもグループ学習や自主的な学習に力を入れ、視野広く学んでいる。後者では、体験的な学習からリアリティを感じることにより知識を定着させている、といった想定である。
 偏差値55以上の高校で学んだ学生と、偏差値45未満の高校で学んだ学生が混在する基礎演習では、自主的に考え、調べ、まとめて発表する中身の質、レベルが大きく異なることが考えられる。実際、学生に発表をさせると、高いレベルの発表をする学生がいる一方で、中学生レベルの学生もいる。優秀な学生はほかの学生への配慮からか、手を抜いていることもある。
 このように、多様な学生に対応するために、基礎演習ではきめ細かい個別指導が求められる。しかし、教員は指導のために授業外でも多大な時間とエネルギーを費やさなければならず、学習の進捗チェックや学習スキルに対するコメントの要求度が下がってしまっているのが現状である。


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