学士課程教育の質の担保・向上のために、各大学が組織的・具体的に教育改善を進めることが改めて必要になっている。各大学の教育方針には、建学の理念や精神に基づいた、アドミッションポリシー、カリキュラムポリシー、ディプロマポリシーが挙げられるが、大学関係者の間で俗に「入口・中身・出口」とまとめられる学士課程教育の時系列の中で、どのような学生に入学してほしいか・どのように育てていくか・どのような学生に学位を与えるのか(大学が求める教育のレベルを身に付けたと証明するか)を、社会と学生に分かりやすく説明することが重要だろう。もとより、説明した内容を、大学自身が責任を持って保証しなくてはならない。
2007年9月に実施された中央教育審議会の小委員会報告は、国際競争の拡大に伴う高度な能力を有する人材の育成の急務をうたい、そのための大学教育の質的維持、特に卒業時の厳格な成績評価を求めている。併せて大学入試制度の改善検討も進められるという。
大学に求められている社会的・国際的信頼を担保するために、高等教育の質の保証を組織的・具体的に実現することが、21世紀のわが国の大学に課せられた責務といえる。
日本私立学校振興・共済事業団の調査によれば、2007年度入試で定員割れとなった4年制私立大学は39.5%であった。私立大学の約4割が定員を満たしていないという結果は、受験生に人気の高い学部の新設・改組、入試方式の多様化のみに頼った募集では、定員の維持はままならなくなったことを示唆している。
ところで、(株)ベネッセコーポレーションが高校生を対象に行った調査によれば、すでに2004年の段階で、進路選択上必要な情報の調べ方を知っていると回答した高校2年生は、普通科生徒の3割に満たない*。従って、この時点で高校生に対して分かりやすく自学の教育力を伝達する必要性が高まっていた、ということだ。
大学の教育力は様々なフェーズに切り分けられるだろうが、先に述べた「初年次教育」・キャリア教育もその一環であることは言をまたない。
単位の実質化を担保するための正課の講義・ゼミにおける教育改善の試みは、どうだろうか。国際社会の中での市民育成を目指した教育方針の策定、国際コミュニケーション力を付けるための英語学習の改革、「社会人基礎力」を付けるための対外連携の導入と講義内容の改善など、厳しい環境の中で地道な努力が行われつつある。
大学が特色ある教育力を周知させるためには、広報活動が不可欠なことは言うまでもないが、そのためにはまず、自学の教育の今後進むべき方向性を見定め、他大学と異なる自学の特色ある教育力とは何かを省察することが肝要だ。その際、一部の有為な教員個人の教育活動のみに教育力の性格を付与してはならず、大学が組織として意思決定をして、教授団や教職員が総体的に学生の教育に取り組んでいるものを見いだすべきである。
大学の特色ある教育力の涵養(かんよう)とその周知広報の浸透は、今後の大学の生き残りの大きなカギとなるであろう。 |