特集

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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大学事例1:教養教育の再検討 岩手大学

「学びの銀河」プロジェクトを旗印に、
建学以来の教育目標を再構築する

2000年度に全学共通の「環境教育科目」を設置するなど岩手大学は早くから環境教育重視の姿勢を打ち出していた。
次の一手に選んだのがESDだ。全学共通科目をすべて結び付けるESDは同大学の特色化・個性化にとどまらず、環境問題などの人類的諸問題を理解する能力を育てるとともに、「現代を生きる力」を育成している。

教養教育を再構築し世界に通用する教育を確立

 「『学びの銀河』に、自らの星を見つけ、自らの星座を築け!」
 漆黒の宇宙を背景に、受験生に向けた力強いメッセージを発信するのは、岩手大学が発行する「学びの銀河」プロジェクトのパンフレットだ。
 岩手大学は、2006年度からESDを軸とした教養教育の改革に取り組んできた。ESDとは“Education for Sustainable Development”の略で、「持続可能な開発のための教育」のことである。つまり、将来にわたって持続可能な共生社会をつくるために、自然環境の保全、経済の発展、政治の改善、貧困の解消、異文化理解など、世界的な諸課題について理解を深め、その解決を志向させる教育だ。
 2002年に南アフリカ共和国で開催された「持続可能な開発のための世界首脳会議」において、日本は国内のNGOと共同で「ESDの10年」を提案した。これが世界の賛同を得て、同年の国連総会で採決され、ユネスコを主導機関として2005年から2014年まで、ESDを各国に広める国連キャンペーンが展開されることになった。
 これを受け、岩手大学は全学共通教育の柱にESDを据え、「学びの銀河」プロジェクトとして教養教育の再構築に乗り出した。同大学は、これまでも青森県境の大規模な産業廃棄物投棄問題への対応、北上川の清流化といった地域の環境対策に研究面で貢献してきた。2000年度には一連の成果を土台に全学共通の「環境教育科目」を設置し、2004年度の国立大学法人化の際には、教育目標の一つに 「環境問題をはじめとする複合的な人類的諸課題に対する基礎的な理解力」を備えた人材の育成を掲げるなど、環境教育重視の姿勢を打ち出している。
 同大学には、ESDの理念を教養教育の中核とすることによって、従来の環境教育を深化させ、育成したい人材像をより明確化するというねらいがある。玉真之介副学長は、「『持続可能な開発』の実現には、環境対策だけでは不十分。人権、異文化理解、災害、貧困、企業の社会的責任など、地球規模のあらゆる課題に総合的に目を配る必要がある。岩手県でも産廃問題や農林業における後継者不足など、地域社会を脅かす課題を抱えている。地方国立大学として地域に貢献し、かつ本学の環境教育をもっと広げていくためにも、ESDによって世界的な課題に取り組むマインドを持った学生を育てたい」と、意気込みを語る(表1)。

図表


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