「社会人」も「基礎力」も一般的な言葉だが、それを合わせた「社会人基礎力」は、最近登場した言葉だ。経済産業省産業政策局長の私的研究会「社会人基礎力に関する研究会」の座長を務める諏訪康雄教授は、その意味をこう話す。
「社会人基礎力は、社会で自分の能力を生かしながら、意欲を持って仕事をしていくための基本的な能力のこと。これを学校教育などを通して身に付けておかないと社会に出て困る、というメッセージも込められている」
社会人基礎力は、成長の過程で自然に身に付くものであり、社会に出れば自然に鍛えられるものと考えられてきた。ところが、現在の日本では、社会に出る前に社会人基礎力を身に付ける機会が減っている。その理由として、諏訪教授は3つの背景を指摘する。
「1つ目は教育期間が延びたこと。ほとんどの人は18歳まで学校と家庭の中で過ごし、一般社会との接点が希薄だ。大学院に進学すれば20代半ば近くまで学校社会の中だけで育つ。社会人基礎力は幼少時から徐々に身に付けていくものだが、そうなると専門的な知識や技術は獲得できても、社会の多様な人々とうまくやっていく力を身に付ける機会を逸することになる」
社会で生きていくためには、社会人基礎力のほかに、主に初等・中等教育段階で身に付ける「基礎学力」や、主に高等教育段階以降で身に付ける「専門知識・技術」も必要だ(図1)。社会人基礎力は家庭や地域でも学べるはずだが、近年、家庭や地域はこの力の育成に無力になっている。
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