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すわ・やすお

すわ・やすお

◎1947年生まれ。1970年一橋大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科で博士課程単位修得。法政大学専任講師、同助教授を経て、現職。経済産業省経済産業政策局長の私的研究会である「社会人基礎力に関する研究会」で座長を務める

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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インタビュー:社会人基礎力と大学教育

「社会人基礎力」の育成を通して
大学の教育力を向上させる

法政大学大学院政策科学研究科 諏訪康雄教授

大学・短大への進学率が50%を超え、本格的なユニバーサル時代に突入した現在、
大学教育の在り方が大きく問われようとしている。
経済産業省では「社会人基礎力」の概念を打ち出しているが
これは大学教育に新しい視点を付加するものなのだろうか。
法政大学大学院の諏訪康雄教授に聞いた。

「社会人基礎力」の育成が 学校教育の新たな使命に

 「社会人」も「基礎力」も一般的な言葉だが、それを合わせた「社会人基礎力」は、最近登場した言葉だ。経済産業省産業政策局長の私的研究会「社会人基礎力に関する研究会」の座長を務める諏訪康雄教授は、その意味をこう話す。
 「社会人基礎力は、社会で自分の能力を生かしながら、意欲を持って仕事をしていくための基本的な能力のこと。これを学校教育などを通して身に付けておかないと社会に出て困る、というメッセージも込められている」
 社会人基礎力は、成長の過程で自然に身に付くものであり、社会に出れば自然に鍛えられるものと考えられてきた。ところが、現在の日本では、社会に出る前に社会人基礎力を身に付ける機会が減っている。その理由として、諏訪教授は3つの背景を指摘する。
 「1つ目は教育期間が延びたこと。ほとんどの人は18歳まで学校と家庭の中で過ごし、一般社会との接点が希薄だ。大学院に進学すれば20代半ば近くまで学校社会の中だけで育つ。社会人基礎力は幼少時から徐々に身に付けていくものだが、そうなると専門的な知識や技術は獲得できても、社会の多様な人々とうまくやっていく力を身に付ける機会を逸することになる」
 社会で生きていくためには、社会人基礎力のほかに、主に初等・中等教育段階で身に付ける「基礎学力」や、主に高等教育段階以降で身に付ける「専門知識・技術」も必要だ(図1)。社会人基礎力は家庭や地域でも学べるはずだが、近年、家庭や地域はこの力の育成に無力になっている。

図表
出典/経済産業省ウェブサイト『社会人基礎力に関する研究会』(2007年9月現在)

 「なぜなら、自営業者の割合が大きく減少したからで、これが2つ目の背景だ。就業人口に占めるサラリーマンの割合は、1955年頃は44%だったが、今や85%だ。かつては半数以上が自営業者であり、子どもは昼間、多くの働く大人を目の当たりにしていたが、今はその機会が少ない。社会で働くということを肌で感じる機会が減ったのだ。3つ目は家庭環境の変化だ。核家族化が進んで異なる世代間の交流が減り、家族ぐるみで地域活動に参加することも少なくなった。子どもが社会的な体験をする機会は、以前に比べて圧倒的に少ない。だからこそ、学校教育で意識的に社会人基礎力を育成しなければならなくなった」


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