特集

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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企業や地域との連携が大きなポイント

 大学が「社会人基礎力」を育成するためには、この育成に関して大学よりもノウハウを持つ企業や地域社会との連携が不可欠だ。共同プログラムを開発できればさらに望ましい。
 「ただし、扱うテーマがバーチャルではあまり意味がない。あくまでも現実に起きている問題を提示し、学生が向き合うことに意味がある。現実感のある課題だと、学生は意欲的に取り組む」。そのためには、教員の意識改革が必要だと諏訪教授は言う。
 「アメリカの教育現場には“Teach me, I'll forget.  Show me, I may remember.  Involve me, I'll understand.”という言葉がある。これまで日本の大学の教員は“Teach”の部分しか考えていなかった。教育効果を上げるには、学生を参加させることが大切で、そうすれば学生も多くのことが腑に落ちる(understand)はず」
 諏訪教授は、学生を参加させるためのノウハウを次のように語る。
 「ある研究所の調査結果によれば、社会人の能力を伸ばすには、(1)これまでより少しだけ高い負荷や仕事を与える、(2)責任を少し大きくする、(3)人材育成を計画的な能力育成プログラムに組み込む、のが効果的だという」

就職力が高まり大学の魅力向上に寄与

 「社会人基礎力」の教育は魅力ある大学づくりを促すのだろうか。諏訪教授は、短期的にも就職力向上につながると言う。
 「社会人基礎力を定式化した結果、コンピテンシー(思考や行動における成果を高める特性)と重なる部分が多い点に気付いた。企業が導入を進めるコンピテンシー採用においても、社会人基礎力の高い学生は有利となる。就職後の活躍も期待されるため、社会人基礎力育成の強化は結果的に学生の就職力向上に結び付くだろう」
 このほか、能動参加型の授業が増えることで、授業運営が良くなると、諏訪教授は予想する。
 「主体的に考える学生が増加し、結果として、長期的には学生の学力も向上し、教員の満足度も上がるはず。社会人基礎力を学士課程教育の視点に取り入れることは、こうした好循環をもたらす大きなチャンスと考えた方がよい」
 このように、社会人基礎力は長期的に見ると、大学の教育力向上に貢献するが、それには大学全体としての努力が必要になる。
 「社会人基礎力の教育には『ヒト・モノ・カネ・情報・時間』をいかに再構築するかが重要だ。知識伝授とスキルアップの授業の両立には時間の有効活用が必要であり、グループワークに適した教室の確保など物理的な資源の確保も大切だ。予習による授業への能動的参加を促すためには、教育システム全体を見直すべきだ。必要なら、社会人基礎力育成担当の教職員を配置してもよいだろう。各大学とも置かれた状況に応じて工夫し、社会人基礎力を高めるための教育を推進してほしい」


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