計画実行に際し、共立女子大学が最も配慮したことは、ステークホルダーへのケアである。
　まず学内の各部署と教職員に集中化計画とその広報計画を説明し、意思統一を図った。教職員には、集中化計画が学園の生き残りをかけた最重要施策であることを理解してもらい、当事者意識を高めた。また、学生や保護者からの質問の窓口を１つにした。異なる情報が複数から流れると、不信を招く原因になるからだ。
　こうして学内の体制を整えてから、まずは学生と保護者への広報を始めた。学生には数回にわたって、集中化計画を詳細に記した学内報を配付、保護者にも別途学内報を送付し、周知を徹底した。
　共立女子大学事務局の遠山克美次長は、「保護者の中に本学の卒業生が少なくないため、集中化計画への反対意見が出てくるのではないかと気を使った。ところが、むしろ『学園が変わろうと努力している姿勢が感じられ嬉しい』『大学の改革時に学生でいられてよかった』など、保護者や学生からは肯定的な意見が多く、勇気づけられた」と話す。
　学生と保護者への広報を十分にした上で、地元の自治体や交通機関、八王子キャンパスに関係する業者などに集中化計画を説明し、理解を求めた。このように関係各所にすべて周知させてから社会に集中化計画を公表した。
　遠山事務局次長は、「キャンパス移転については、学生募集の準備に影響を及ぼすため、勇み足をしがちだ。しかし、学生不在、保護者不在で公表してしまうと、『そんなことは聞いていない』と反発を買ってしまい、計画全体に影響する。広報スケジュールを徹底して管理し、学生や保護者、行政や業者など、関係各所すべてに集中化計画を伝えて理解を得てから公表したことが、大きな問題もなく、スムーズに進んだ要因だ」と当時を振り返る。

　しかし、キャンパス集中化がすべて計画通りに進んだわけではない。国際文化学部の2004・2005年度入学の学生には、集中化後も八王子キャンパスで全年次の教育を行う予定だったが、神田一ツ橋キャンパスへの移転を希望する声が上がったのだ。そこで、大学は急きょアンケートを実施し、国際文化学部３年生全員、留年の可能性がある４年生、海外留学中の学生計520人に対して「2007年度から神田一ツ橋キャンパスでの授業を希望する」に是非で答えてもらう質問をした。結果、肯定者は90.7％に上った。
　「学生の総意としては神田一ツ橋キャンパスへの移転に賛成だと判断した。そこで、移転に反対した学生40人と一人ひとり面談し、理由を確認していった」（遠山事務局次長）
　まず移転の趣旨を説明して誤解を取り除き、通学にかかる交通費などの経済的な負担増が問題となる場合には、奨学金という形で学生個別に対応した。さらに、下宿等の転居が必要な学生に備えて学生寮を用意するなど、万全の体制を敷いた。その結果、最終的に全学生から移転の了承を得られたという。
　「集中化に際し、反対する学生や保護者を１人も残さないという方針で取り組んだ。最終的に学生と保護者の全員から賛同を得られたのは、個別にきめ細かく対応した結果だ」（平井事務局長）