特集

うちむら・ひろし

うちむら・ひろし

◎高校教員として公立高校6校で教鞭を執った後、2004年から現職。教員時代に広島大学大学院で博士(心理学)を取得。専門は学習心理学、理科教育、教育評価


Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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進化する高大連携と教育の継続

多くの学生は、高校時代までに身に付いた受動的な学習態度から脱却できず、大学が望むような「学生」になれずにいる。
この問題を解決する一つの方法として、高大連携によって、入学後の大学での学びに、スムーズに移行できるような取り組みをする大学がある。
出張講義などの従来のスタイルから一歩進んだ、新たな高大連携の在り方について、6つの事例と高大連携を推進する大学教員2人の寄稿により考察する。

寄稿

教育に継続性を持たせるために
高大連携はどうあるべきか

京都工芸繊維大学アドミッションセンター准教授 内村 浩

京都工芸繊維大学アドミッションセンターの内村浩准教授は、
高校と大学の両方で教員を経験し、高校と大学の教員で構成する
理科教育研究サークルの活動にも参加してきた。
現在は、AO入試の企画・運営および学生の追跡調査に携わる傍ら、
教員養成のための講義や接続教育を担当している。
これらの経験に基づき、今後の高大連携の在り方について提言してもらった。

高大連携が目指すべきものは何か

 筆者が大学で教えるようになって痛感したのは、高校での学習が必ずしも大学入学後の学びにつながっていないということである。本学の学生追跡調査の結果によれば、入学直後から学業不振の学生が続出しており、しかも高校の成績や入学試験の得点が良かった学生の中からも、大学の授業が理解できない、自分で考えてレポートが書けない、応用が利かないなど、ドロップアウト傾向の学生が出ていることが分かる。この原因は、高校と大学の学びに質的なギャップがあるためである。
 例えば、多くの高校で行われているような入試対策のための学習では、現実離れした仮想的な問題について、いかに速く正確に、単一の正解にたどりつくかということが目標とされる。しかし、大学での学びでは、より現実世界に近い問題が扱われ、そこには単一の正解や唯一絶対の解釈が存在しない場合も多く、問題解決のために必要とされる思考過程も多様である。以上のような高大の学びのギャップを埋めることを「高大連携」の最も重要な目標として位置付けたい。
 ところで、大学での学びに必要な学力や資質とはどのようなものか。国際社会の急激な変化に伴い、学力観そのものが大きく変わりつつある。2007年12月に結果が発表されて話題となったOECDのPISA(生徒の学習到達度調査)も、そうした世界の流れに沿ったものである。認知心理学の世界でも、ハワード・ガードナー博士の「多重知能理論」やJ.P.ギルフォード博士の「知能の立体構造モデル」をはじめ、多くの研究によって学力の構造が解明されつつある。大学入試センターが発表した「大学で求められる資質・能力」でも多様な能力が挙げられている。
 以上のような広義の学力観をまとめたものを表1に示してある。  これらの力は大学生だけに求められるものではなく、これからの社会を生きる市民すべてに必要とされるものである。高大連携を通して生徒のどのような力を伸ばすのか、また、それをどのように実現するのかについての視点を持つことが重要である。

図表


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