特集

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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「草の根の高大連携」に必要な視点とは

  特定の大学と高校で見られるような組織的な高大連携と併せて、これからは教員同士の個人的なつながりをベースにした「草の根の高大連携」が必要である。以下、そのための視点をいくつか挙げてみる。
(1)教員中心の交流
 これまでは、大学の教員が高校教員の頭越しに高校生を指導してきた。しかし、これでは、教員同士の個人的なつながりが深まらない。教育接続の改善に向けての取り組みをさらに広げるためには、高校と大学の教員同士が個人的にもっと密接につながることが必要である。
(2)対等
 大学が高校を「上から指導する」というのではなく、教育という同じ土俵の上で、共に知恵と汗を流す人間関係をつくりたい。一緒になって子どもたちを育てる「仲間」という関係を構築することが望ましい。
(3)双方向性
 これまでは、大学が持っている(知的、物的)資産を、大学から高校へ一方的に提供するというスタンスであった。しかし、大学側が自学の教育を本当に良くしようと思うならば、大学の教員が高校の教員から学ぶべきことはたくさんある。高校が持っている教育の専門的知識を大学での教育に生かせないだろうか。双方の教育を充実させることを目的とするような活動を目指したい。
(4)自主的活動
 上からのお仕着せや「周りがやっているから」というのでは長続きしない。教育行政や管理職には、教員の自主的な研修を支援する(少なくとも足を引っ張らない)という懐の深さを望みたい。

  すでに以上のような草の根の高大連携を実践している事例は少なくない。例えば、筆者が所属している「アドバンシング物理研究会」では、高校と大学の物理担当の教員が毎月、定期的に集まり、物理の授業の改善について研究したり、夏休みに高校生・大学生を対象とした公開講座を開いたりしている。
 筆者が高校教員時代を過ごした広島県には「広島県物理教育研究推進会」という組織があり、15年以上前から、複数の大学と高校の教員が手弁当で集まり、お互いの教育実践について情報交換をしてきた。発足してから最初の5年間は、大学と高校の学びのギャップから、お互いの意識をすり合わせることが難しいという状況が続いたが、途中からお互いを「さん付け」で呼び合うというルールを決め、徐々に信頼関係ができていった。近年は、小・中学校、高校、大学の教員が登壇してのパネル討論会、教材フェア、教育研修会、研究交流会などを開催している。
 こうした草の根の連携組織は、教員同士の研修や相互理解の場となり、大学教員にとっては、高校現場の実態を知る機会になる、高校教員の豊かな経験とアイデアから学べる、近頃の学生に対応したカリキュラムの改善につながるなどのメリットがある。また、高校教員にとっては、大学やほかの高校と交流することで視野が広がる、大学教員の専門的・先端的な知識から学べる、日頃の授業の改善につながるなどのメリットがある。
 多くの経費と労力をつぎ込んで「鳴り物入り」で取り組まれている特定の高校と大学による高大連携についても、「草の根の高大連携」の視点から検証し直してみると、いろいろと課題が見えてくるのではないだろうか。

〈参考ウェブサイト〉
・アドバンシング物理研究会:http://www.ap.opal.ne.jp/(2007年12月現在)
・大学が求める能力・資質と入試改革の方向性:
ベネッセ教育研究開発センター「教育改革と人材育成の方向性2000年版」(2007年12月現在)
・広島県物理教育研究推進会:http://home.hiroshima-u.ac.jp/jinjin/edu/index.html(2007年12月現在)


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