近畿大学の養殖技術は社会的、学術的な意義の大きさから、2003年度、「クロマグロ等の魚類養殖産業支援型研究拠点」として21世紀ＣＯＥプログラムに採択された。その研究は養殖技術の向上にとどまらず、品質検査、販売、流通、経済効果、そして環境保全といった、クロマグロの生産から消費までに関する総合的な過程を対象にしているのが大きな特徴である。
　同プログラムは大学院研究科専攻（博士課程レベル）や大学付属の研究所で行われているため、学部生が直接、研究に携わることはない。しかし、研究の推進は、農学部水産学科を中心に学部生に対しても少なからず副次的な効果をもたらしている。
　水産学科の教員の大半が同プログラムに関わっているため、卒業研究のテーマにクロマグロを選ぶ学生は少なくない。養殖魚の精子凍結や人工授精などの方法を研究する水産増殖学研究室の太田博巳教授は、「研究室の20数人の４年生のうち５人前後はクロマグロに関するテーマに取り組んでいる」と話す。クロマグロに直接関係なくても、養殖環境や魚病対策、魚肉の安全性評価、水産物の流通など、関連テーマに取り組む学生は多い。クロマグロなどの飼育環境の研究を行う水族環境学研究室の江口充教授は、その教育効果をこう説明する。
　「産業として成立する質量の魚を生産する養殖場を持つ大学は、世界でも近畿大学のほかに例を見ない。４年生は研究の必要に応じて実験場を訪れ、貴重な研究の機会を得ている」
　21世紀ＣＯＥプログラムへの採択に伴い、近畿大学は研究を推進する20人余りの博士研究員（ポストドクター）を採用した。また、優秀な大学院生を集めるために、授業料の減免制度や奨学金制度も実施。その結果、研究室の研究力が格段に高まり、それが学部生に好影響を及ぼしている。
　「従来、研究室は教員と大学院生、学部生で構成されていたが、それぞれの研究室に２、３人の博士研究員が加わった。教員１人当たり６、７人の卒業研究を指導しているが、そこに博士研究員によるアドバイスがプラスされたことにより、学部生の卒業研究の質は確実に上がっている」（江口教授）
　博士研究員は教員よりも学生に年齢が近いため、学部生にとって親近感がわきやすく、気兼ねなく質問できる存在である。進路についての相談を受けるなど、学部生のキャリア形成の面にも貢献しているという。
　授業にも、クロマグロに関する研究の成果や研究設備が生かされている。２年次の選択科目「養殖学基礎実習」は、和歌山県串本町にあるマグロ養殖拠点の実験場で実習を行う。その授業には研究の成果が色濃く反映されている。
　「教員自身の研究や体験を踏まえた指導や教材にはリアリティがあり、学生も興味を持ちやすい。研究の充実化により、授業中に提示できる具体例が非常に豊富になり、学生の関心が高まった」と江口教授は説明する。
　養殖や魚の生態に関わる授業はもちろん、「漁業生産工学」「水産経済学演習」「水産物マーケティング論」といった流通や経済効果に関わる分野でも、同様に好影響が見られるという。