特集

岩倉信弥

いわくら・しんや

 経営学博士。本田技研工業(株)社友。1964年多摩美術大学卒業、本田技研工業(株)入社。(株)本田技術研究所専務取締役、本田技研工業(株)常務取締役を歴任。全国発明表彰通産大臣賞、日本グッドデザイン大賞ほか受賞多数。


Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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 テーマ1:起点をどのポリシーに置くか

 論説

「豊かで刺激的なデザイン
『共育』の場づくり」の推進

岩倉信弥

多摩美術大学理事・教授

「3つの方針」に基づいて例えるなら大学は「家」

 大学に身を置いて7年。この間の経験から、課題である「3つの方針」のうち、どのポリシーに比重を高く置き、いずれを起点とするかについて考えてみたい。
 「入口」の入試もさることながら、「出口」である卒業生の就職も重要。受験者数や倍率、それに学生の質を考えることや学生の求める働き場を探し、増やすことのどちらも手を抜けない。「屋内」である授業の中身とカリキュラムを有効にするには、施設・設備、それに教員の布陣がカギとなる。カリキュラム、施設・設備、指導陣が三位一体となって有機的に機能し、3つの歯車がうまくかみ合うことが重要である。
 このように見ると、大学の学舎は「家」に例えられる。家には家長がいて、代々つながる家風がある。家長はその家にふさわしい夢や希望を見つけ、そこに向かって家族を導く。
 本学における私の最初の仕事は、プロダクトデザインコース内の人たちが共通して抱ける目的や目標を見いだすことであった。それが見つかりさえすればおのずと道が開ける、またそうした中からコースにふさわしいアプローチの方法も定まるに違いないと考えた。

学生を「商品」ととらえ理念・目的を明確化

 2001年4月から、多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザインコース(2002年度から専攻)をあずかる。企業で長年培ってきたことが大学で通用するか心配であった。
 企業は「商品」を売って利益を得、それを社会に還元して存在を認められる。では、私立大学での「商品」とは何か。私は迷わず、それは「学生」だと考えた。
 「良い材料を仕入れ、加工し付加価値を付けて、お客さんに喜んでもらう」と考えると、商品は当然学生ということになる。保護者は投資家(株主)で、顧客は、高校や予備校、企業や社会になる。
 こうして「学生は『商品』なり」の考え方が生まれた。このように考えると、コースのあるべき姿も見えてくる。「理念」や「目的」を明確にし、「目標」を定め、「実施要領」を具体的にしていけばよい。本学の校風は「自由と意力」で、私が過ごしたホンダの風土に近い。「明るく、楽しく、前向き」にやれば道は開けると思った。
 まず、1年目は、「学生は『商品』なり」「教育は『共育』なり」の考え方の下、できるところから始めた。「共育」には、教育(education)の語源「educe」が「引き出す」の意であるように、教員と学生がお互いに能力を引き出し合い、「共に育つ」という意味を込めている。
 まず「講評会」に誰でも参加できるようにした。「教授室」は大部屋方式をとり研究室とも合体し、教員同士や、教員と学生が常に自由闊達に議論できるようにした。
 1998年の改組により、「生産デザイン学科」のあり方や「プロダクトデザイン」とは何かという定義も、教員たちの認識がバラバラで、学生たちも、何を学びに来ているのか保護者に説明できない状態だった。
 議論の末、「プロダクトデザイン(製品意匠)とは、いわば『空を飛ぶもの』から『身の回りのもの』まで、人々の生活を心豊かにするために必要な、すべての『モノ』や『こと』が持つ機能を『かたち』にする行為(意匠)、およびその結果(製品)」と定めた。また、コースの旗印となるロゴマークも定めた。

図

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