特集

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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 テーマ2:ポリシーをどう明確化するか

 Case2 東京女子医科大学

望ましい女性医師像を
アウトカムとした教育

女性医師の特性を伸ばす医学教育を展開する東京女子医科大学。「自分の特性を伸ばし社会に奉仕できる女性医師」をアウトカムとし、入学から卒業後まで一貫した人材育成を実践している。

卒業生像を明確にしカリキュラムを大きく改訂

 東京女子医科大学では、現在、「医のこころを実践する力を育むカリキュラム―自分の特性を伸ばし社会に奉仕できる女性医師をアウトカムにした医学教育―」というプログラムが進行中だ。望ましい女性医師の育成をディプロマ・ポリシーとして明確にし、そのために必要なカリキュラムを再編成。同時に最終的な目標にどれだけ到達しているかを評価するシステムも整備している。
 同大学がディプロマ・ポリシーを明確にし、カリキュラム改革に着手したのは、1990年のことだ。
 同大学理事の吉岡俊正教授は、「医師には、個を磨き、主体的に考え、解決していく力と同時に、人間に対する慈しみの心も求められる。これらを備えた女性医師こそ、本学のめざす卒業生像で、そうした人材を社会に送り出すことが、当時まだ数が少なく、発言力も弱かった女性医師の地位を向上させていくことにつながると考えた」と、改革へのきっかけを語る。
 全学的な話し合いの中で明確になった、「育成すべき女性医師像」の柱が次の2つだ。「自主的に課題に取り組み、問題点を把握し、かつ追求する姿勢を養い、医学のみならず広く関連する諸科学を照覧して理論を構築し、問題を解決できる能力」を持った医師。そして、「心理的、社会的、倫理的問題なども含め、包括的かつ創造的に論理を展開し、様々な人と対応できる全人的医人としての素養」を持った医師。
 このような女性医師を育成するために導入したのが、「テュートリアル教育」と「人間関係教育」だ。「テュートリアル教育」の目的は、学生の問題解決能力の育成。事例の症状を提示し、そこからどのように判断していくのかといった医師の実践的な考え方を、6、7人の学生がディスカッションを通して学んでいく。一方、「人間関係教育」は、医師に求められるマナーやコミュニケーション能力、倫理観などを育成するカリキュラムだ。
 1994年には「統合カリキュラム」も導入。外科や内科など学問系統別に行われていた講義を見直し、臓器や疾病構造別に講義を再編成して、ブロックと呼ばれる教育単位による医学教育のモデルを打ち出した。「育成すべき女性医師像」を策定したことにより、どのようなカリキュラムが学生にとって必要かが明確になった。
 ディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーは、「教育の特色」として、ホームページや学校案内などを通して周知している。また、推薦入試のアドミッション・ポリシーの一つにも、「本学の医学教育の特色を理解した上で」と明記されるようになった。
 入試説明会では、教育の特色を詳しく紹介。さらに、推薦入試では、受験生を6人1組のグループに分けて100分間のディスカッションを課し、一般入試でも面接などを通して、同大学のポリシーに適した学生かどうかを見極めるというように、ディプロマ・ポリシーの明確化を発端として、改革は入試にまでつながっていった。


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