新潟大学では、2002年以降、学部教育の再構築作業（新学士課程教育の構築）に取り組んできた。従来は学部に所属していた教員を「教育研究院」に所属させ、全教員を原則として全学の教育に貢献するものと位置付けた。また、教養科目／専門科目の科目区分を廃し、学内で開講される全授業科目を全学生に対して開講されるものとし、各授業科目に分野と水準を表すコードを付けた。
　つまり、総合大学の総合性を十分に教育に活用できる、教員と授業科目の共通プラットホームを整備し、その上に、副専攻、主専攻の到達目標明示型教育プログラムを機能させるという設計である（本誌2006年２−３月号20ページ参照）。

　もともと、学部・学科は何がしかの学問を体現するものであり、講座はその学問の各分野を担うものであった。ここで「担う」ものは当該分野の教育という意味ではなく、当該分野の学問そのものであったので、講座編成は当該学問の構造をそのまま反映していた。学生は、学科という「学問の野原」をさまよい歩く中で識見を磨き、修練の証明としての学位を得たのである。従って、学位の有効性は学問の構造により担保されていた。しかし、今日、状況はすっかり変わったのである。
　この数十年で大学はエリート段階からユニバーサル段階へと変革を遂げた。それは、学生数の増加という量的変化にとどまらない、質的変化であった。その間、旧来の名称の学部・学科に加え、多くの新意匠の学部・学科が出現したが、それが新学問分野の創出であったはずはないのである。つまり、意識的か否かはともかく、大学は人材育成目的に即して教員組織とカリキュラムを作るものに変貌（へんぼう）していたのである。
　変化は、新意匠の学部・学科のみならず、既存の学問分野名の学部・学科においても足元に忍び寄っていたはずである。学科が、学生と教員が同居する修練の場であるならば、当然スケールメリットが働く。より多くの個性的存在（教員）との出会いが修練の質を豊かにするのは当然で、教員団の規模が教育の質に直接影響を及ぼす。
　もし、「競争的環境下で個性溢れる大学教育」が展開されなければならないとしたら、伝統的名称の学科でも、その教育課程は修練の場を学生に提供することだけでは済まないのである。そのあたりに「学位」の実質化の課題があり、教育プログラム化の問題がある。学問の自由と大学の自治を謳（うた）うなら、大学にはこの転換をきちんとやり遂げる責任がある。
　2008年３月に公表された「学士課程教育の構築に向けて（審議のまとめ）」では、学位授与、教育課程編成、入学者受け入れの３つの方針（ポリシー）に貫かれた教学経営の重要性が指摘されている。
　学士課程教育を、学問分野を基盤として整理されたものではなく、学習成果に基盤を置いたもの、つまり、人材育成の観点から構築される教育プログラムであると定義すると、プログラムの到達度としての学位授与ポリシー、そこに到る学習方策を明示するカリキュラム・ポリシー、そしてプログラムの学習に必要な能力を示すアドミッション・ポリシーの明示が必要になるのは当然である。
　ポリシーを定めて公表するだけならそれほどの困難はないかもしれないが、学習成果および社会的責任の両方の観点でそれを「機能させる」には、幾つかの具体的な「仕掛け」が必要となろう。