特集

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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現状分析に基づいたアクションプランを立案

 1990年前後からのオーストラリアにおける高等教育の門戸拡大は、学生の多様化を生み出し、中退率や進級率といった問題が、広い関心を集めるようになっていた。大学教育による成果の明示化が社会全体から要求され、政府の統制も教育の「プロセス」から「アウトカム」へと変わってきている。近年、大学でも「大卒者特性(Graduate Attributes)」を設け、ウェブサイトなどで教育の質保証システムについて詳細に記している場合が多い。
 今回取り上げるラ・トローブ大学では、まず現状のCheckを行ったところ、入学希望者は減少し、中途退学者は増加する傾向が年度を追って強まっていくことが分かった。1995年、副学長の発信で、次年度から入学登録した学生について、中退理由の分析を開始。その結果、初年次教育の改善・開発を行うことになった。
 ここで、同大学が初年次教育の改善・開発のためのPlanningに導入したのが、「戦略的変革サイクル理論」という、常に優位な位置取りとモチベーションを獲得するための変革手法である。この理論の特徴は、変化の流れの中で、自大学のあるべき姿を目標として設定し、現状とのギャップを見極めた上で、戦略課題に応じたアクションプランを教職員が自ら立案することによって、目標管理と新たな取り組みの必要性が自覚できるという変革サイクルが生まれることである。

■C:Check
 戦略的変革サイクル理論の導入を背景に、1996年、全学的な初年次学生の調査結果を受け、初年次教育のプロジェクトを進めた。まず、計画のイニシエーターである副学長が全学教育会議を主宰し、教務の委員会やプロジェクトを発足させ、ステークホルダーである初年次学生を分析した。
 さらに、外的・内的要因となる環境を分析する。ここでは、SWOT分析などの手法を利用。現在の同大学のポジションを確認し、目標となる姿とのギャップを押さえた。その上で、大学のミッションを「基礎的学習・教育と研究にかかわる社会責務を果たす」と表現。同時に大学全体の方向性や理事会・法人が大学存続のために策定した「マスト(must)」となる4つの条件(全初年次学生の学術的導入、オリエンテーションプロセスの向上、大学収入の向上、初年次教育における教授法と学習法の質的向上)を取り込んでいる。

■P:Planning
 “Check”での項目を分析後、初年次学生に対する課題を抽出したものが「戦略課題の立案」になる。この戦略課題を解決するための計画(作戦)を作成し、これを「活動目標」として掲げ、アクションプランを立てた(下表参照)。
 まず、全学的なアクションプランでは、行事・活動およびその実施場所と責任部局を計画し、実行のために新たな開発が必要な項目を挙げている。次に、各学部レベルで「行事・活動」ごとにタスクを作成し、役割分担をしている。ここで着目すべきは、タスクごとに成果項目を設定していることだ。この成果項目(成果指標を設定できるとなお良い)の設定によって検証ができる仕組みになっているので、次回の変革に結び付けることが可能である。

表

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