特集

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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成果を確認・検討、新たな挑戦の誕生

 成果が不十分な場合、達成のためにどこを変えるのかは、学部ごとのアクションプランがあれば可能である。また、各学部の行事・活動での評価項目を達成しているのにもかかわらず、全学的な戦略課題が解決されていない場合には、どのレベルで不適切だったのかを究明する必要がある。そのとき、戦略や計画(作戦)そのものを見直し、新たな目標設定や向上的変革へと進むことができる。
 ラ・トローブ大学では、この計画の実行を通して、新たな挑戦が生み出された。それは、初年次の学科・コースの調整役の役割を定義し、適切な支援と報酬を提供すること。そして、調整役と大学部局との対話の改善、チューターとデモンストレーターの訓練、初年次教育では経験豊かな教員を配置するというものであった。
 このような挑戦が教学経営上のノウハウとなり、学内の教学上の資産蓄積につながっている。
 一例として、教授法や学習法における成功事例をウェブサイト上のフォーラムに掲載し、教職員が必要なときに閲覧できるシステムを開発した。
 教学経営においては、教育・研究・国際化・ガバナンスやマネジメントなどの項目の方針に沿った成果指標や質のチェックリストが蓄積されるようになった。

現状の立ち位置を把握し次のゴールをデザイン

 ラ・トローブ大学の初年次教育を題材にして、戦略的変革サイクル理論を紹介した。この理論を効果的に利用するには、まず「PDCA」の前に“C”を実行し、大学全体における自大学のポジションを見極めることが重要である。
 現状、Planningの段階で高邁(こうまい)なゴールを設定し、評価はおろか実行すらできない「絵に描いた餅」的な計画を立案しているという声も、大学現場からはよく聞かれる。これは、自大学の現状分析と次の環境分析ができないがために起こる現象である。
 そのような事態を避けるためにも、まず自大学のポジションを明確にすることが必要である。そのためには、IR(Institutional Research)のようなシステムの導入も考えられる。全学的な評価検証項目の経年比較や、全国平均や他大学等との比較によって自大学の位置を認識でき、さらにアラームが分かり、先手を打つこともできる。
 また、学内外の環境分析で、社会から必要とされている大学像やめざす方向が描きやすくなるばかりか、現状との差が分かれば、開発課題も明確化される。
 環境は刻々と変化する。大学のミッションは普遍でも、変化する環境に合わせて、大学のゴールをどのようにデザインするか。さらに、優位な位置をどのように獲得するか。戦略的変革サイクル理論を有効に機能させるためにも、IRに準じたマネジメント情報を常に得るための仕組みが必要だと考える。


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