IR実践のプロセス

　ほとんどの大学が最初に直面するのが、「情報を収集・分析する専門家がいない」という人材の問題だろう。しかし、大学は本来、さまざまな専門分野の人材の宝庫。IR組織の設立時には、専門分野の研究を通して情報の収集・分析のノウハウを持つ人が担当するのが現実的だ。
　早稲田大学文学学術院の沖清豪（きよたけ）准教授は、「特に人的制約が大きい小規模大学では、統計学や社会調査が専門で、IRに理解がある教員を充てるといい。インターネットに詳しい教員も加わるのが理想だが、大学のウェブサイトを担当している職員なら対応できるはず」と話す。
　沖准教授は、アメリカやイギリスの大学におけるIRの調査と並行して、早稲田大学をはじめとする私立大学でのIR構築の可能性について研究している。「私立だと職員中心の組織を考えがちだが、中小規模の大学では現実的に無理だと思う。少なくとも立ち上げの段階では、データの分析を依頼するなど、教員をうまく活用すべき」と指摘する。

　活動がある程度、軌道に乗った段階では、担当者をどう配置したらいいだろう。愛媛大学経営情報分析室の秦敬治准教授は、IRが改革に向けた提言をする活動であることを前提に「専任の担当者として、教育的視点と経営的視点の両方を備えた人材を置くべき。１人で兼ねてもいいし、複数で実現してもいい」と考える。
　秦准教授自身は20年間、財務を担当し、その間に教育学（教育経営学）の博士号を取得。まさに教育的・経営的視点を兼ね備えたIR専任担当者として、愛媛大学に採用された。
　教員が兼任でIRを担当して数年で交代するのでは、それぞれの専門分野に偏った分析に陥りがちで、IRの専門家が育たない。さらに、教員だけだと経営的な視点に至らず、各学部の教授会と同じレベルの提言にとどまってしまう、との指摘も聞かれる。
　一方、早くからIRの重要性を唱えていた同志社大学の山田礼子教授は、「統計の専門家だけではデータ分析に終始してしまうので、高等教育の専門家が欠かせない。大学院で高等教育について学ぶ職員も増えつつあり、今後、これらの職員が分析結果を提言に結び付ける役割を担うことも考えられる」と話す。
　ただし、どんなに優れた人材が高レベルの調査・分析をしても、組織に発言力や予算の裏付けがなければ、実際の改革には結び付かない。理事会または学長直属の組織とするか、IR担当理事を置くかなど、学内での位置付け方が成否を決めそうだ。

メインメニューで自己点検・評価を選ぶと、右の画面になる。画面が「学部」「研究科」「研究所・センター」に切り替えられ、所属学部・部署ごとに、担当の評価項目の進捗状況を編集する。項目は多岐にわたり、目標達成度の測定、継続的な観測が可能。データベースの構築は、IRの基本ともいえる。