片岡 広島工業大学は、学園創立50周年の節目である2006年度に「教育改革18」という学部教育の抜本的な改革を始めました。そのねらいは何でしょうか。
茂里(もり)学長(以下茂里) 「多様な学生の意欲にしっかり応えていきたい」と考え、改革を構想しました。改革を始めたのが「平成18年度」であったのと「青春18」の思いを込めて、このようなネーミングにしました。この年から新しい学習指導要領で中学・高校の教育を受けた学生が入学するようになりました。学習歴、考え方や経験が異なる学生それぞれに対応した教育がいっそう求められています。そこで、本学の建学の精神である「教育は愛なり」に立ち返り、一人ひとりに合った教育を展開できる体制を再構築しました。
片岡 カリキュラムを拝見しましたが、「トラック制」という独自の履修形態を取り入れています。
茂里 日本で唯一の制度かと思います。通常の学習プログラムを「基本学習トラック」とし、専門分野をより発展的に学ぶプログラムを「発展学習トラック」としました。大学院の授業科目も先行して履修できます。同じ専門分野でも、基礎をしっかり学習したいという学生と、より発展的な学習に挑戦したいという学生の、両方の意欲に応えられるシステムです。
片岡 改革開始から3年が経過し、手応えはいかがでしょうか。
茂里 改革開始時の1年生が本年度3年生になり、改革がようやく実体化し始めたという状況です。本年度から、「発展学習トラック」の科目の一つとして「HITインターンシップ」が開講しました。18人の学生が企業16社で1カ月間研修を受けました。研修前後には、総合オリエンテーション、事前・事後研修、中間報告、報告会と計8回の指導を受け、研修中は教員が企業に赴いて指導にかかわりました。現場が持っている強みと大学の体系的な教育を併せた試みです。
片岡 インターンシップの期間は通常1、2週間で、企業によっては、お客様扱いで終わってしまうとも聞きます。1カ月間、企業で鍛えられた学生にはどのような変化が見られましたか。
茂里 先日行われた事後報告会では、情報システムの会社で研修を受けた学生の報告が印象に残りました。「授業では、機能のことだけを考えてプログラムを書いていたが、企業で作ったプログラムには、10行の命令文に対してコメントを10行、場合によってはそれ以上書いた。企業では作成者以外が見ても分かるようにプログラムを作るのだと分かった。作った人、使う人、将来メンテナンスをする人の間にコミュニケーションが必要」と言うのです。
こうした体験を教室でさせることはできません。キャンパスの中の教育だけではなく、「教育における産学連携」をどんどん進めていきたいと考えます。
片岡 「教育改革18」では、「社会・環境・倫理」の教育も重視されています。どのような技術者を育成したいとのお考えからでしょうか。
茂里 「社会・環境・倫理」は本学の教育方針を具体的に示したものです。技術者は人の命を預かる仕事であると同時に、社会と深くかかわります。技術に関する知識を学ぶのは当然として、社会、環境や倫理に対する知識や関心も高めていく必要があります。技術者は、自分が作ったものをどういう人が使うのか、社会にどのような影響を及ぼすのかを考えなければいけません。
片岡 学生は専門科目の単位修得に精一杯で、環境や倫理にまで意識を向けるのは難しいのではないでしょうか。
茂里 「社会・環境・倫理」については、専門分野についての理解が進んだ4年次で履修すると学生もその意義を理解できるのですが、卒業研究に忙しく、履修する余裕がありません。そこで、2010年度から、技術者倫理などの科目に「クォーター制」を採用する予定です。セメスターをさらに半期に分け、1単位の科目を1年次と4年次前期に組み込みます。同じ倫理でも内容が異なります。適切な時期に適切な教育を行うことを重視しました。
専門科目の担当教員は、授業中に折に触れて「社会・環境・倫理」の話をすることにしています。倫理や環境に関する教養科目はありますが、
専門分野に関連付けて学んでこそ意味があるからです。
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