この構想を提唱したのが1914（大正３）年、３年後には、実現を見ないまま、菊池は死去している。しかし、彼の「修養教育」の理念は、改正された高等学校令に、形を変えて盛り込まれたとみてよい。「高等普通教育」は基本的に中等教育の役割だが、その「完成」は、高等教育の一部としての新しい「高等学校」の教育目的とされたからである。
　なぜ大学予科ではなく、「完成」高等普通教育機関としての高等学校なのか。これについては、答申に付された理由書の中で次のような説明がされている。
　ヨーロッパ諸国では、社会の中核的な担い手は、「国家ノ中堅タル中流階級」であり、フランスのリセやドイツのギムナジウムなど、中等学校がその中流階級の「高等普通教育」の場として、重要な役割を果たしてきた。地方にあって「各種事業ノ経営者」や、「地方行政ニ従事スル官吏」、それに「地方自治体ノ名誉職」などになる日本の中流階級の場合にも、それと同様の教育が必要とされる。
　ところが、日本の中学校はこれらの学校に比べて年限が短く、内容的にも不十分である。中流階級には「更ニ精深ナル高等普通教育」が必要とされる。新しい高等学校は、そうした高度の「普通教育」の場でなければならないというのである。
　このように見ると、旧制高等学校の教育目的が、ただ「高等普通教育の完成」を図るというのでなく、国家社会の「中堅タル中流階級」の育成にあったことがわかってくる。つまり、そのねらいは、何よりも中流階級の「教養教育」にあったのである。