リーダーズマインド

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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 LEADER'S
 MIND
 No.004

学問や国の垣根を超え
生涯にわたって学び続ける人材を育てる

  LEADER 関西学院大学学長 杉原左右一
   INTERVIEWER (株)進研アド執行役員 安永研司

関西学院大学としては珍しい理系出身の学長として、文理融合の重要性を訴え続けている杉原左右一氏。
「新基本構想」でめざす大学像、育成する学生像を聞いた。

「新基本構想」に基づき文理融合を推進

杉原左右一学長安永 関西学院大学では、大学のビジョンについて全学で討議し、「新基本構想」を策定したとうかがいました。どのような方向をめざしているのでしょうか。

杉原学長(以下杉原) 新基本構想では、めざす大学像として「垣根なき学びと探究の共同体」の実現を掲げています。「垣根」には、さまざまな意味があります。文系・理系という学問分野の垣根、国、人種や宗教などの垣根にとらわれない、分け隔てない視点を育みたいと考えています。
 1929年、第4代院長のC.J.L.ベーツは新設のキャンパスを “We have no fence” と評しました。その言葉に象徴される本学のルーツを見直し、新しい時代に向けた「関学」の姿を明確にすることが、新基本構想のねらいです。

安永 文理の垣根については、学長に就任されてから、事あるごとに問題提起してこられました。

杉原 文系・理系の垣根を取り払う必要性を強く感じるのは、私自身の経歴と無関係ではありません。私は理学部で数学を学んだ後、大学院の商学研究科に進み、統計学を専攻しました。数学だけの世界に物足りなさを感じ、社会とのつながりを持ちたいと考えたからです。私のような経歴の人は、残念ながら本学にあまりいません。
 文系・理系というのは、便宜上の区分けにすぎません。例えば、地球規模の課題になっている温暖化や環境保全に対応するには、文系・理系双方の基礎的知識が欠かせません。さまざまな可能性の中から、より効果的な方向を提案する能力も必要です。専門以外の分野についても幅広い基礎的知識を持ち、かつ、国際的な視野で課題をとらえる力を育成することは、大学に課せられた使命だと思っています。
 2008年は日本人のノーベル賞受賞者が4人誕生しました。その方々のインタビューを聞き、印象的な点が3つありました。それは、「確固とした基礎を持つこと」「関連する分野についても幅広く学ぶこと」「夢と希望を持って最後までがんばること」です。これらは、特に創造的な活動にとって重要な要素ではないでしょうか。

安永 文理の垣根を取り払うためにどのようなことをお考えですか。

杉原 新基本構想では、関学生として身に付けてもらいたい素養、あらゆる垣根を超える幅広い学力を「KG学士力」とし、その質保証に向けたカリキュラムを編成する計画です。現在、具体的な取り組みを検討中です。
 すでに、学部を超えて専門以外の領域を体系的に学べる「複数分野専攻制」と、この制度を活用し最短4年で2つの学位を取得できる「ジョイント・ディグリー制度」を設けています。後者については、2007年度から修了者が出ています。幅広い知識を生かして社会で活躍すれば、後に続く学生の励みになるでしょう。

安永 垣根なき学びと探究の共同体の具現化は、国際化教育につながるのでしょうか。

杉原 新基本構想の中でも、国際社会との連携、国際性豊かなキャンパスの実現は、主要なビジョンです。2010年度に予定しているインターナショナルスクールを擁する千里国際学園との合併、国際学部の新設等は、それを加速させます。現在、国連との協定に基づいて途上国に学生ボランティアを派遣していて、今後は、他の国際機関との連携も強化する予定です。
 国際学部は、もう少し早くつくるべきという声もありました。しかし、今の時代だからこそ必要とされる、平和や国際貢献を掲げる関学ならで はの、国際系学部のあり方を追究したいと思っています。

「垣根なき 学びと探究の共同体ラーニングコミュニティ」の実現に向け新基本構想が始動
図
 「新基本構想」は、従来の「基本構想」を抜本的に見直し、2009〜2018年にめざす方向性を示した中長期の構想だ。約100人の教職員が23のチームに分かれて議論した結果をまとめ、2009年3月に公表された。大学を取り巻く環境や国際情勢の急激な変化への対応を図るとともに、経営と教学が一体となって、関西学院のミッションを現代にふさわしい形で体現することを打ち出した。
 全体像は右図に示すとおり。重要なビジョンの一つは、関西学院大学の学生として身に付けてほしい素養を示した「KG学士力」の質保証だ。今後、約5年をかけて、教養教育も含めた独自のプログラムを推進していく。

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