IR 数値はこう読み解く

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
  PAGE 2/3 前ページ 次ページ

目的ごとの集計・分析が必要

 例えば、愛媛大学の授業評価アンケートには、授業改善項目(授業の内容、手法、教員のスキル等)に加え、学生の出席状況、授業外学習の状況などの項目も含まれている。他大学では、教室環境等についての設問を含んでいるケースも見受けられ、項目は多岐にわたっている。
 それでは、授業評価アンケートをIR的視点で読み解くには、どのようにすればよいのだろうか。
 授業評価アンケートにおいて必要なのは、目的を明確にし、授業個々の合計点だけではなく、それぞれの目的ごとに点数を集計することである。そうすれば、それぞれの評価・分析が可能となる。
 質問項目のカテゴリーとしては、次のようなものが考えられる。授業内容・授業方法・改善度といった教員の知識・スキル・態度等に関すること、カリキュラム・授業以外の学習時間の確保をはじめとした組織的な改善に関すること、出席状況や授業態度といった学生に関すること、教室など施設整備等教育環境に関することである。
 また、直接的な授業改善に影響があるとは限らないが、授業評価アンケートを教員評価・表彰制度のために、副次的に利用することも可能である。

授業評価アンケートの目的別分析のPDCAサイクル

 目的別分析を詳細に説明しよう。
(1)教員個人の授業改善
 設問としては、シラバスどおりの授業が行われているか、授業のレベルは適切か、声の大きさや話す速度・板書・教材等は適切か、教員と学生および学生同士のコミュニケーションが図られているか、中間アンケートを基に授業改善を行ったかなどが一般的である。これらを集計・分析することによって、改善のためのFDプログラムの内容や頻度の設定が可能となる。
(2)組織的な授業改善
 大学によっては、カリキュラム・マップなどを作成し、学部・学科のカリキュラム・ポリシー(CP)やディプロマ・ポリシー(DP)とカリキュラムや授業が対応しているか、診断を行っている。カリキュラム・マップを詳細に作成すれば、それぞれの授業の役割も明確となる。授業評価アンケートにCP・DPと各授業の関連性に関する設問を加えて分析すれば、個々の教員だけではなく、組織的なカリキュラム改善、授業改善に生かすことが可能である。
 また、課題といえる授業外学習の確保のデータ収集も可能である。学生が授業外の学習をどの程度、行ったかを把握することによって、大学としての単位の実質化に関する分析ができる。
(3)学生の学ぶ姿勢の改善
 意欲的、積極的に授業に参加したか、学習内容を理解・修得しようと努力したか、授業を妨げる言動をする学生がいなかったかなどを集計・分析し、学生の学ぶ姿勢の改善策や学生支援策を検討する。
(4)教育環境の改善
 授業を行ううえで施設・設備に不備がないか、教育効果を妨げていないかを学生の視点で把握し、分析することにより、効果的な教育環境を整える。
(5)教員評価・表彰
 アメリカやオーストラリアでは、授業評価アンケートを教員評価や教員のインセンティブに、積極的に利用している。日本においては、教員評価という観点ではなじまないと判断する大学も多いようだが、最近では、表彰制度に結びつけてインセンティブを与えている大学も見受けられるようになった。しかし、教員評価や教員の順位付けをするためには、質問項目の策定・分析などについて細心の注意が必要であろう。


  PAGE 2/3 前ページ 次ページ
目次へもどる
大学・短大向けトップへ