最終回　プログラム評価の現状と評価方法のあり方

　初年次教育は、大学としての学習成果の目標やディプロマ・ポリシーが明確かつ具体的でなければ、その必要性や重要性が見落とされやすい。学士力や社会人基礎力、ＯＥＣＤ（経済協力開発機構）のコンピテンシーなど、学習成果の目標づくりの参考情報は十分揃っている。問題は、自学の教育理念や現状分析をふまえ、具体的かつ検証可能な目標としての学習成果を設定し、あらかじめ公表できるかということである。
　目標は、国が想定する学士レベル（全学共通）のものと、専門分野ごとに加わるものの両方で構成される。初年次教育の目標は、前者であることが多い。医歯薬や工学では専門分野への水路づけを含む初年次教育も少なくないが、全学共通の到達目標を意識した初年次教育が多いといえる。対人関係づくり（人間関係の構築）、自己分析による自分の個性・強み理解（自己理解）、学習動機や学習目的の設定、大学での学習技術の修得といった目的などである。これらの目的が、初年次教育の目標として設定され、評価されるというケースが多い。
　ところが、こうした基準に基づいて学生を評価できるかといえば、容易ではない。また、初年次教育の担当者にすれば、「どのような評価を行えば学内で初年次教育が評価してもらえるか」と悩んでいるケースはかなりの数に達しているだろう。
　アメリカの初年次教育評価では、次学期への学業継続率（retention rate）を分析する、初年次教育履修の学生と非履修の学生のＧＰＡを比べるといったケースが多く、定量データに基づき効果を実証する。しかし、日本でこれらの定量データを出そうとしても、中退率の高さを気にしたり、逆に大きな数字でないために関心が低かったりする。
　それではどうすればいいのか。初年次教育に限ったことではないが、筆者は、日本の高等教育における「評価」概念の混乱からの脱却を勧めたい。