学生の成長を追う!
Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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学生の成長を追う! 第2回

学習成果の達成度と学生の経験

学生の成長の指標は、学士力や社会人基礎力で示されるような知識、技能や態度がどれくらい身に付いたかで示すことができるだろう。こうした学習成果は高校時代までの既得要因のほか、大学入学後の経験とその「エンゲージメント」の違いにより獲得に差が見られる。本稿では、JCSS2007のデータを基に、学生の学習活動、課外活動の程度と学習成果との関係を考察する。


創価大学教育・学習活動支援センター助教
同志社大学高等教育研究・学生研究センター研究員 安野舞子

JCSS2007(大学生調査2007年)

同志社大学・山田礼子教授研究グループがUCLAの「College Student Survey(CSS)」を基に開発したもの。2007年12月〜2008年1月に実施。国公私立の高等教育機関(大学14校、短大2校)から6228人が参加。本稿での分析対象は大学の1年生から4年生の計5775人。

教員とのかかわりが アカデミックな力に影響

 「学士力」の指標(知識、汎用的技能、態度・志向性)を参考に、入学時と比較して自分の知識や能力がどのように変化したかを尋ねた項目を見ると、「大きく増えた」と「増えた」の回答を合わせた割合が最も高いのは「専門分野や学科の知識」(以下「専門的知識」)であった(84%)。以下、「問題解決力」(64%)、「コミュニケーション力」(58%)、「チームワーク」(58%)、「批判的思考力」(54%)と続く。  これらの学習成果が学生の学習活 動および課外活動とどのように関連しているのかを、重回帰分析を用いて調べてみた(図表1)。

図表1:学習成果と学習活動・課外活動との関係

 「専門的知識」については、学習活動における諸経験のうち、「教員からの指導や助言」が最も強い影響を与えていることがわかる。また、「授業や実験への出席」もさることながら、「授業外での自学自習」がより大きく影響していることもうかがえる。
 「問題解決力」や「批判的思考力」については、「授業・実験への出席」の影響力は比較的小さく、それ以外の学習経験(授業外での自学自習、授業内容について他の学生と議論、教員とのかかわり)のほうがより強く影響している。これは、学生の主体的な学びに加え、教員の関与や学生同士の学び合い(ピア・エデュケーション)がいかに重要であるかを物語る結果といえよう。この3つの学習成果においては、課外活動はほとんど影響を与えておらず、「アルバイト」がある程度関係しているのみである。
 一方、「コミュニケーション力」「チームワーク」については、課外活動、中でも「クラブ活動」の影響力が目につく。学習活動面においては、教員とのかかわりが依然強い影響を与えているが、「授業・実験への出席」との関係性が見られないのは一考に値する。
 近年は「学生参加型授業」の重要性が叫ばれ、グループでのディスカッションや、PBL(課題/問題解決型授業)によってコミュニケーション力やチームワークが身に付く可能性は大いにある。しかし、伝統的な講義形式の授業、つまり教員と学生、学生同士がインタラクティブに学び合う授業でなければ、こうした力が身に付くこともないであろう。
 なお、「ボランティア活動」は、どの学習成果項目に対してもほとんど、もしくは全く影響を及ぼしていない。そもそも、本調査に参加した学生の中でボランティア活動に従事した経験のある者自体少ないのだが、ボランティア活動は本来、学生の認知面および情緒面の成長に大きな影響を与える経験である。よって、「サービス・ラーニング」のような形で、ボランティア活動を大学教育の中に積極的に取り入れる工夫がもっとあってもよいのではないだろうか。


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