企業には、会社という制度を単位とするコーポレートブランドがある。コーポレートブランドが果たすのは「保証機能」であり、買い手側のリスクが低いことの証しとなる。ソニーを例にとれば、ソニー生命やソニー銀行の「ソニー」がそれに当たる。
しかし、ソニーが市場、顧客、ロイヤルティーという集まりをつくるときに掲げる旗印は、「ソニー」ではなく、「VAIO」「So-net」「PlayStation」などの小さなブランドである。これらは一見、商品名であり、制度単位での名付けに見えるが、実はそうではない。ソニーは、「コミュニティー・オブ・インタレスト(興味・関心を軸に形成される集まり)」を意識して、これらのブランド名を付けたのである。
VAIOはコンピュータのブランドではなくクリエイティブな趣味を楽しむ集まり。PlayStationは、多くのゲームソフト提供企業とのアライアンス(集まり)である。そしてSo-netでは、インターネットによる新しい文化づくりに関心を持つ人を集め、新しい価値創造を行ったのだ。
具体的には、So-netはPostPetというメーラーソフトの開発に際して、商品化の前から何万人という顧客に無料配布し、一緒にソフトを完成させるという方法を採った。その結果、それまで企業の中で閉じていた価値づくりに、積極的に参加する「So-netサポーター」を生み出したのである。
このように、新しい価値づくりは、従来の制度にとらわれることなく、人々の「関心を集める」適切な単位に、適切な名前を付けるというブランドの設定から始まるのである。
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