ジェネリック・スキルは、職業にかかわらず、自立した社会人・職業人として共通に必要なコンピテンスである。しかし、例えばコミュニケーション能力といっても、医師と教師では、共通の部分もあるが、具体的に必要な能力は異なる。こうした具体的文脈の中でないと身に付けるのが難しい能力が「職業上のスキル」である。同じ職業であっても、どのような組織で働くかによって、求められるスキルは異なる。さらに、どのような職務を担当しているかによっても違ってくる。
学生や大学からすれば、ジェネリック・スキルに加え、個別の企業が求める「組織固有のスキル」など、具体的なスキルの情報も重要である。大学のアドミッション・ポリシーと同様に、各企業も、採用にあたって望ましい人材像を具体的に示し、大学でどのような知識を修得し、何がどこまでできるようになるべきかを、「エンプロイメント・ポリシー(雇用方針)」として示すべきである。到達目標を示すことにより、大学は教育に、学生は学習に真剣に取り組むようになるはずだ。
一方、各大学もどのような人材を育成したいのかを明確にすべきである。中央教育審議会大学分科会の議論の中で、特に企業を代表する委員からは、学生に修得させようとする知識や能力を具体的に公表してほしいという意見が強かった。これらは2011年4月から公表が義務化された中に含まれていないが、各大学は積極的に公表すべきであろう。
学生が就業に必要な能力を理解し、その獲得をより確実にするためには、実際の就業体験が有効である。
一例として、中国には「定向」と呼ばれる人材育成のしくみがある。企業からの要請に応じて大学がプログラムを編成。学生は企業と契約し、大学で3年間学び、企業で1年間実習することによって、実践的な能力の獲得をめざす。契約で合意した条件を達成した場合は、その企業に就職できる。ある意味で究極の産学連携教育といえるかもしれない。
日本でこのような産学連携教育を行うことは性急すぎるかもしれない。しかし、大学卒業者の就職や社会的自立がますます困難になりつつある状況下では、教育面での大学と企業との緊密な連携・協力が、全国と地域の両レベルで必要であり、議論から行動に移す時に来ている。 |