観光立国を提唱し、観光産業の発展を図りたい観光庁は、こうした事態に鑑み、観光にかかる人材育成のあり方を見直し、新たな体制を構築する事業に乗り出した。それが2007年度から始まった「観光関係人材育成のための産学官連携検討会議」だ。観光系の学部・学科を持つ大学の教員、旅行会社・航空会社ほか観光産業界の代表などが参加。インターンシップ、観光経営マネジメント教育、カリキュラムなどの各ワーキンググループに加え、学長・学部長等会議なども設置されている。
会議において、現状の改革を促す立場から最も問題視されているのは、いわゆる「語り部」による教育である。これは、過去に観光産業に従事した人が大学に転職し、自らの経験に頼り、それを「語る」ことで教育することを指している。観光系の学部・学科には、こうした教員や教育手法が目立つのである。
しかし、観光産業界が最も求めているのは、会計やマーケティングなど、経営手法に長けた人材、いわゆる「経営リテラシー」を身に付けた人材であり、このような「経営系」の教育においては、「科学性」が問われる。つまり、数量的解析に基づく高度な仮説形成の能力が求められるのだ。多変量解析を用いた観光統計の分析などがその一例といえる。
科学性を重視する議論においては、経験主義的な教員は厳しくそのあり方を問われることになる。そのため、私が参加する「観光経営マネジメント教育に関する産学官連携実践ワーキンググループ」(以下WG)でも、科学的アプローチを重視する立場に対しては、日本の大学における観光学部の教員構成の実情に合わないものとして、強い反発がある。しかし、経営人材育成のためには、科学的アプローチが重要との認識に基づいて議論が進められている。 |